超番外編

□ユメノオトコ4
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枯れかけた観葉植物に、飲みかけの水を注ぐ。

木目調のシェルフ。雑然と積み上げられたファイルの隙間から葉を覗かせていた、
ソレは既に寿命を縮め紅葉していた。

さて、観葉植物が紅葉するかどうか、オレは知らないのだが。

最後の一滴までをカラカラの土へとかけてやって、それからコップをそこへ置いた。

この密集地帯へこれ以上物を乗せる事は危険極まりなかった。

が、オレを背中から抱き締めてくる男が、オレの何もかもを許さないから仕方が無い。

オレは、降参の合図を出す。

それは威嚇して唸る大型犬相手に、そっと、オレは敵じゃない、敵じゃないと、
アピールするかのようだ。

「徹夜ですか」

首筋に唇を当てられる。

「ああ、30時間目を閉じてねえ」

彼の手がオレの喉仏をグっと掴む。

「瞬きくらいしてください」

上向きにされて、耳元へ彼の唇が近づいた。

「ヤラせろよ・・・中澤。たまんねえ」

背中からぴったりと接した体のその部分が硬い。

「オレが何故ここにいると思ってるんです?」

唇が触れる程間近で、その目を見る。

疲れきった暗い目が、より一層凶暴さを持って黒く光る。

何者をも服従させる目だ。

その目が一瞬、力を無くした。

そして、オレの体をキリキリと締め付けていた腕が緩む。

新藤は。

目頭を摘むように押さえ、それから向こうへ向くとドサリとベッドへ腰を落とした。

西遠興行から車で20分ほど離れたところに新藤のマンションがあった。

それを知ったのはついさっきだ。

なぜなら。


「社長が呼んでまいす」


新藤が声を出さずに笑う。

それから、手で、わかってる待てと、やって、数秒固まった。

その姿を暫く腕を組んで見守る。

「・・・コーヒーでも淹れましょうか」

「いや、行くさ」

髪を掻きあげ、新藤がベッドを軋ませて、スっと立ち上がった。

「・・・お疲れのところ、申し訳ありません」

礼をすると、新藤が眉間をしかめて睨んでくる。

「慣れすぎなんだよ、その言い方。機械みてえに言いやがって」



慣れ。


そりゃそうだ。つい一ヶ月前まで、オレは普通の会社員だったんだから。
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