本編

□オリエンテーリング
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「おりえんてーりんぐ?」
ワタヌキの気の抜けた声。

そりゃそうだ。
濃厚なキスかました後に、言うセリフじゃねーもんナ。
でも、オレは言う。
言わないと、ズルズル、コイツの思惑にハマってしまうからだ。連泊なんてとんでもナイ。
朝帰りなんてのもジョーダンじゃない。面倒い。

昨日の土曜から今日の日曜、只今PM.7時。
もう、帰らないとヤバイだろ。
「月曜の朝5時半集合なんだよ、オレ。だから、もう帰る。ゴメンな、センパイ」
なのに、ワタヌキは一瞬ボケた顔した後に、またキスしてきた。
「ちょっ」
その肩を両手で押し返してやる。
と、押し返してるのはコッチなのに、どんどんオレの背中は重力(?)に引かれるままフローリングに着地。
「山登りなんてサボっちまえ」
「そりゃ、ホンネ、行きたくねーけど。」
「なら、サボってデートな」

デート!?
ワタヌキの声で、聞き慣れない単語が飛び出した。

スゲー、行きたいんデスケド・・。
でも、オレがサボったら、ヤツラの昼のカレーの具材が減る・・・。
ま、にんじんなんかなくたってカレーなんか食えるだろうけど・・。
イヤ、待て、オレ、あんまりそれって不真面目すぎないか?
しかも、なんでもコイツの言う事聞いちゃってるみたいで、オレってナニ?って感じもしないでもナイ。
で、気づく。
ワタヌキが肩震わせて、笑ってるってコトに・・・!
「アンタ・・」
オレが迷ってるの見て喜んでたナ!
「デートはまたナ。しっかり足腰鍛えて来いヨ」
笑いながらワタヌキが立ち上がった。
と、振り返る。
「なんだよ」
起き上がりかけた肩に伸ばされる手。
膝を付いてオレの顔に被さってくる。
今度は逆さまに映るワタヌキのカオ。
「ツヅキに気付けろよ」
衝撃のセリフの後、逆さまの唇が合う。
舌が舌の上を滑って何処までも深く。
深く、互いの奥へ伸びる。
今まで感じた事もナイ感触がした。
ダレも触れられないバショをくすぐられる。

こんなんで。
こんなんで、スゴク感じる。
少しだけ、少しだけいつもと違うって事で、オレは普段よりも感じてる。
感じすぎてる。
この唇を放すには精神的苦痛を伴う。
ずっとずっと抱き合えてたらいいのに。

「悪かった。イジワルした」
ワタヌキが言って、オレを起こした。

せつない。

「明日はまるっきり、お前近くにいねーんだな・・」
独り言みたいにワタヌキが呟いた。
それに軽く答える。
「ん。また明後日」
オレは口元だけ笑って立ち上がった。

唇を指で弄りながら、目だけでワタヌキはオレを見た。
少しだけ見つめて、逸らされる。
シツコク引き止められるのは困るけど、もう、引き止めないってカオ見るのも、すげーツライ。
もう一度キスしたくなる。
したくなる気持ちのまま、オレは部屋を出た。
もう一度、呼んでくれたら、キスしよう。
そう思って階段を降りる。
降りきっても、ワタヌキのドアは開かなかった。
玄関まで行って、ワタヌキのお母さんに声を掛けて、アイサツしてオレは外へ出た。
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