番外編

□Return★Life
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どんよりと雲で埋まった空。
湿度が高いせいか、心無しか球も低い。
こんな日は、イライラして、無理してでも点が欲しくなって、ただの練習なのにガチでぶつかって、周りに引かれる。


無言でオレの横を通り過ぎる奴らの白い目を想像して、深呼吸。

落ち着けオレ。
サッカーは団体競技だ。
ここで引かせてどうするよ?
まだ始まったばっかだろ。
ピッカピカの1年生だし?
かわいく尻尾振るくらい出来んだろ?
な?

オレは誰?

オレはケイタ。
イズミサワ ケイタ。
よし。

引き攣りそうな顔を無理に笑わせて、足ごと刈った同輩に手を上げる。
「わり!無意識に足が出ちった〜。ゴメンな!」
そいつは、もっと引き攣った顔で、「おう」と手を上げた。

無意識で足が出るかよ。
自分で突っ込んで、なんでかもっとムカついた。


練習後、ロッカーまで歩いて行く途中。
「おい、イズミサワ」
軽々しい呼び方で呼ばれても、すぐ振り向かない。
こういう一個一個に反抗したくなる自分っていうのが、痛々しいと気づいたのも最近だ。
振り向きたくない気持ちを抑えて、声のした方を振り返る。
と、3年の副キャプテンをしている大河(オオカワ)が頭から水でも被ったのかびしょ濡れで立っていた。
無言で見ていると、オオカワはタオルで頭を拭きながらこっちへ歩いてくる。
黒髪の短髪に、口の大きなニカニカ顔。
個人的に耳の上の刈り上げがちょっと気になる。
「さっきのさ〜、紅白戦」
急に途切れた台詞に、すぐにイラつきを覚える。
自分の目が鋭くなっていくのを感じながら、それでも辛抱強く次の言葉を待っていると、オオカワは「何飲みたい?」と聞いて来る。
早く話せよと言いたいのを我慢して、
「何も。イリマセン。」
と、仏頂面で答えるのも手応え無く、オオカワは小銭を出して、すぐ側にあった自販機に向かう。
仕方無く、後について歩くと、少し振り返ったオオカワが笑っている。
「さっきの紅白戦でさ、最後の方、お前突っ込んでって決めたけど、あれって後ろから誰か走って来るって見えてたの?」
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