†アスキラ館†

□『オレンジ色の再会』
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 ぶつかる勢いで、アスランに飛び込んだ。そんなに違わないけれど、それでも少しだけ背の高いアスランの首に抱きつく。そして、ギューと抱き締めた。

 いつまでも背に返ってこないアスランの腕に焦れたけれど、キラは告げる。

「ずっと、好きだった。ずっと、言いたかった。アスラン、やっと…」

 じわりと目が潤み、台詞が震える。

「もう後悔したくないから…今言うのも…変かなって思うけど…。でも…」

 濡れた瞳で顔を上げて、アスランを至近に見詰める。その、キラ以上に繊細なところのある見開かれた碧の瞳も揺れていた。

「アスランが好き」

「キラ…」

「好き」

「キラ」

 アスランの腕が、キラの華奢な身体を力強く包み込む。それに答えるように、キラの力も強くなる。

 アスランの手は、まるでキラという存在を確かめるように、背や、肩や、そして髪を撫でた。

 やがて――

「あの頃は、通じなかったけど…俺もキラを好きだよ。もうずっと――、絶対お前より、俺の片思いの方が長かったはずだ」


「そうかな?」

 不満そうに声を尖らせながらも、顔は笑ってしまう。そういえば、13歳――より以前から、ことあるごとにアスランはキラに向かって『好き』と言っていたかもしれない。

 薄情なことにうろ覚えだけれど。

 まさか、そんな意味だなんて思わなくて『ぼくも大好き』って答えていた自分の子供らしさに可笑しくなる。

「そうだよ」

 律義に返すアスランに、キラはくすりと笑って答える。

「そうだったかも…」

 そして抱き合ったまま顔を見合わせた二人は、くすくす笑い合った。

 オレンジ色の夕日の中で――















 すっかり忘れさられたギャラリーが呆気に取られる中、二人の元に走り出そうとして思わず止(とど)まったカガリの背後から、やはり呆れたようなぼやきが聞こえてきた。

「あれって、友情ってレベルの抱擁かねぇ」

 声の主はフラガだった。

「さあな」

 カガリに答えられるはずがない。けれど、なんだか仲間外れにされたような寂しい気に何故かなった。

 この中では二人が友人だということ恐らくは唯一知っていて、だからこそ特別な親近感を勝手に持っていた。

 けれど――。実際に二人が揃うと、自分の入れる隙間なんて1ミリにも無さそうで。

「なんだ嬢ちゃん、失恋か?」

「は? なに言ってるんだ? あーやだやだ年寄りは、すぐ下世話な勘繰りする」

「誰が年寄りだ、俺はまだ…」

 フラガが何か言っているのを聞き流しながら、カガリは思う。

 確かに失恋した時みたいな、そんな気分だと気が付いた。

 チラリと、いまだ硬く抱き合う二人を視界に入れて、ふと考える。

 ――失恋だっていうなら、果たしてどちらに?


 夕日に染まる二人を見詰めながら暫く自問自答して、そういう意味で好きだって自覚もないのに、失恋もなにもあるわけないじゃないかと、途中で馬鹿馬鹿しくなって考えることを放棄する。

 そして溜め息を吐(つ)いた。たぶんこの場にいる、ギャラリーと化してしまったクルー達の殆どがきっと同じだったに違いない。

 いつまでも離れない二人を、いったい誰が止めるべきなのか――







 キラの肩から飛びだった緑色の電子鳥だけが、我関せずといった様子で、楽しそうに(?)、オレンジ色の空に染まりながら飛んでいた。











[完]

10/12/13 21:23









原稿のBGMに運命を流してたら、ふと本編添いが書きたくたりました。一度書いてみたかった、もう沢山の人が書きつくしただろう、種のアスキラ名場面。

この前の話から、何回見たかわかりません(笑)






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