ほんだな。
□鳴かぬ蛍が身を焦がす/友雅
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―言の葉を口にする者よりも。何も云わない者の方が心中は切実で。強い思いを抱いているという…―
パチン。と扇子を閉じ夕闇の庭から目を離す。ゆっくりと立ち上がり橘の屋敷を出ると、日はもう沈んでいた。
「何をしているのです?友雅どの」
屋敷の門前。
振り返ると、眼鏡を指で上げ…少し困った様な顔の声の主が。
「やあ、鷹通。
仕事は終わったのかな?」
「…質問には、答えて頂けないのでしょうか?ι」
私はふふ、と笑い。
「美しい花を愛でるのは、夜の方がいいと思うのだがね。治部少丞殿?」
案の定…鷹通が赤面したのが、夜闇の中でも分かった。相変わらずだな、この男は。―…こちらの方が恥ずかしくなってしまう。
「…あまり、神子殿を心配させてはなりませんよ?」
鷹通の声は、少々上擦って聞こえたが
「私は、神子殿に心配されるような事はしていないつもりだがね。」
軽い皮肉と共に流し、その場を離れる。
私の背の方から…小さな溜息が零れた気がした。
川沿いを歩くと、夜風に水の匂いが感じられた。
そして、ちょうどある橋に差し掛かった時。いつの間にか…私は一人水面を見つめていた。
―美しい花を愛でるのは…夜の方がいいだろう?―
我ながら、上手い口だと苦笑する。
本当はただ、このように一人で夜風を愉しみに来ただけなのだが…
ふと、鷹通の赤い顔を思い出す。そして、心の奥をそのまま夜風にさらされたかのように冷たく、鋭い感覚が襲った。
「仕方の無い事だ。…私はそういう男なのだよ。」
川の水面は暗く、深く。己の姿さえ映さない。
零れ落ちた言葉。
それだけが流れに呑み込まれ――死んでいく。
そういう感覚に、しばし囚われ、酔いしれた。
本音と、嘘の違い。
私にとってのそれは…
単に口で伝えられるか、伝えられないかだ。
…本心を偽る方が、色々とやり過ごし易い。
それは仕事にしても、女性にしても、変わらない……
緩く波打つような髪を、耳にかけ直す。そうして、袖を翻して…元来た道を見つめた。
ふと。
光りが川を照らした。かすかな、光…。
――小さな、蛍だった。
光に目を奪われた瞬間。
脳裏に神子の笑顔が思い出され、よぎった。
本音と、嘘の違い。
そして。
――言えぬ想いと、
言わぬ想いの違い。
季節外れにも、夜闇にあらわれた蛍。
それに、
突然京へと舞い降りた神子殿の姿が重なる。
嘘をつけぬあの瞳が。
笑顔が。
……愛おしい。
夜風は相変わらずに冷たかったが…胸の辺りがどこか温かい。
――蛍の、光。
今宵。
美しい花は愛でないとしたのだが……
可憐な花に、逢いに行くとしようか。
―鳴かぬ蛍が身を焦がす―
fin.
ハイ!ワケわかりませんよね(^▽^;)?汗
友雅視点の小説でした☆〃こんなですが…感想頂けたら嬉しいですっ////!!