Novel

□Resident over the door
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 部屋へと入ってきたのは蒼い髪をした少年、第一試合で見事勝利を収めたアルヴィスだった。
 試合のときは息を乱さず勝利した彼が、荒く息をつきながら額を脂汗でびっしょりと濡らしながら驚愕に目を見開いている。まさか部屋に誰かいるとは思いもしなかったのだろう。
 尋常ではない苦しみようのアルヴィスの様子に目を見張りながらも、ナナシはまずは自分を落ち着かせる。
 ともかくこれは一大事。貴重な即戦力となるアルヴィスに大事な試合前にでもぶっ倒られたりしたら大変だ。
「待っとき、今人呼んだるさかいに…」
 扉へ向かおうとすると腕を掴まれ阻まれる。
「だ、れも、よばないでくれ…」
 あまりの手の冷たさにぞっとする。
「何言うとん!そんなこと言うとる場合か!?」
「すぐ、おさまるから」
「それ、ほんまか?」
 なんだか釈然としないものを感じながらも、他でもない本人が言っていることだ。取りあえずは様子を見ることにする。
「いつもの、ことなんだ、」
 か細く発せられる声はとてもじゃないが、先ほど涼しい顔で勝利を収めた人物とは思えない。

(………しゃあないな)

 苦しみながら懸命に声を抑え懇願する少年の頑固さに呆れながらも、人の体温が多少なり心地いい事を知っているナナシは、ゆっくりとその思ったより華奢な体に手を回す。

(ホンマは可愛い女の子にしかこんなことしやへんけど、特別大サービスや。まあこの子も美人さんやけど)

 腕の中にすっぽりと納まった少年は少し驚いたように身を竦ませたが、やはり苦しいのか抵抗らしい抵抗もせずそのまま胸へ倒れこむように顔を埋めた。

 自分は盗賊ギルト、ルベリアのボスだ。
 妖精を連れた蒼い髪のアルヴィスという人物の話は、以前より仲間から度々聞いていた。死なない程度に痛めつけられ、仕事が今回も失敗してしまった、という話が殆どだ。最近もギルドの一員、スタンリーから10人ほど仲間を痛めつけらた、と泣きつかれている。
 邪魔をされた回数も多いがファミリーの命は一切奪わなかったことから今まで泳がしていたが、これ以上邪魔をするのならそろそろヤキでも入れたろか、と考えていた相手だ。最も、今はそれ以上に落とし前を付けなければいけない人間が現れてしまってそれ所ではないが。
 ナナシ自身、直接噂のアルヴィスとは会ったことは無かったが、レギンレイヴでギンタ達が声を掛けた瞬間、直感した。

 こいつがあの、アルヴィスだと。

 初めて顔を会わした当初は複雑な気持ちだったものの、ウォーゲームの参加資格を手に入れたのは、自分を除けば女子供だけで、目的を果たすには正直心許なかった。昨日の敵は今日の味方、その彼がウォーゲームの参加者となり確実な戦力が増えたことは素直に嬉しかった。
 噂のアルヴィスは想像していた以上に若く、まだ年端も行かない少年で驚いたが、それでもルベリアに涼しい顔で煮え湯を飲ませ続けてきた人物だ。
 戦力的には充分に期待できる。期待できると思っていたのだが―――…

(…病気持ちかい、面倒なことになってきたわ)

 病気持ちの人間にコテンパンにされてたんかい、と自分のファミリーの弱さに情けなさと少しの戸惑いを感じながら遠い目で今後の見通しを立ててみる。

(最近自分、ハズレくじばっかりや………)

 内心毒づきながらも、何故か自分の腕の力が緩まないことに少しの疑問を感じながら、さっきより若干楽になった様子のアルヴィスには悟られないよう、本日何度目かのため息をこっそりとついた。




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