魔界近郊
□ぶらっど+ぷらんと
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+闇夜に黒き幻影+
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待ちに待った昼休憩。あさぎはツナマヨサンドにかぶり付いた。
淡い茶色の髪は肩より少し長く,眼も同じ色をしている。左にだけヘアピンを2本,“く”の字型にして止めていた。その為前髪は右半分だけ額にかかっている。
パンの柔らかさ,オニオンの香り,マヨネーズとツナのベストマッチ。しっかり噛み締め味わいつつも,あさぎは常人の倍の速度で平らげた。そして,一言。
「……お腹空いたぁ」
溜め息と共に食事を再開するあさぎを見て,向かいに座る桂(けい)は目を剥いた。
髪も眼も黒く,肩より短い髪は癖っ毛なのか所々軽いカーブを描いている。
「アンタ……そりゃ食事中の人間の台詞じゃないよ」
「だってさぁ。食べてすぐ消化吸収されるわけじゃないでしょ。食べ始めたばっかだもん空腹に決まってるよぉ」
喋りながらもあさぎは黙々と食べ物を口に運ぶことを忘れない。カレーパン。梅むすび。ミックスピザパン。チーズスフレ。次々あさぎの腹へと吸い込まれていった。
学生ラウンジのソファに腰掛け昼食をとる3人。あさぎの隣には桐子(とうこ)が座っていた。
肩までの長さの黒髪に,茶色の眼。前髪が少しだけふわっと柔らかく弧を描いている。
今日は久々に3人そろっての食事だ。独り暮らしの桂は購買で買ったパン数種,同じく独り暮らしのあさぎは購買のパンやその他色んなものを,自宅通いの桐子はお弁当をそれぞれ手にして集まったのだが,あさぎのそれは1人だけ明らかに量が違っていた。
あさぎと桐子は同じクラスだ。中々時間の合わない桂より余程あさぎと食事の付き合いがある桐子は,あまり動じなくなっていた。
ふと,桐子は箸を止めた。お弁当の中に味噌焼きの鯖が入っていたのだ。桐子は好き嫌いの多い方だが,特に魚介類はほぼ全部苦手だった。桐子は気を取り直して鯖に箸をつけると,迷わずあさぎの眼前ならぬ口前につき出した。
「あさ,あーん」
「あーん」
ぱくり。あさぎは美味しそうに味噌鯖も平らげた。更にまだ何かないかと桐子の弁当箱をちらちら見やるあさぎに,桂は慌てて言った。
「ちょっと,いくら何でも食べ過ぎやろ」
けれど,桐子もあさぎも暢気なものである。
「あさはもっと食べれるもん,ね」
「ね」
桐子に同意しながらあさぎは林檎ヨーグルトの蓋に手をかけていた。
あさぎは医者もお手上げの貧血体質だ。レバーにシソ漬け梅に魚介類にきな粉にプルーン,鉄分があると言われたものは好きでよく食べているし,何故が不足するのか分からない。だから,人一倍食べてエネルギーをたっぷり補給しておく必要がある。そんな風にあさぎは思っていた。
実際,1人前しか食べなかった日は,まず眠気に襲われ,我慢して立ち上がると立ち眩みを起こし,思考回路が麻痺して受講もままならず,先生に顔色の悪さを指摘され保健室に直行する羽目になった。その後,たっぷり寝て,たっぷり食べて,数時間後にやっと復活したのだ。途中心配して見舞いに来てくれた先生に,「実は空腹で倒れました」等とはとても言えなかった。
そして桂はいい加減まともに相手するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。そうだ,あさぎが食いしん坊なのは知ってた筈じゃないか。そりゃ,真正面から直視したことはなかったけどさ。だから驚いてしまったんだ,きっと。うん。そんな風に自己完結して納得することにした。
やがて,あんなに量があったにも関わらず,2人とそう変わらないタイミングであさぎは「ごちそうさま」と手を合わせた。最後にあさぎはレモンティーを飲んで締めくくる。桐子はミルクティー,桂はストレートティーだった。
まだ講義迄間がある。ネットサーフィンでもしようということで3人の意見は一致して。パソコン室に移動してそれぞれ時間ギリギリ迄楽しんだのだった。
(続く)
☆吸血鬼がチラとも出ないまま……(遠い目)。
その内。その内出ます。
あさぎ達は一応学生です。
学生なのに少女(貧血少女のん)ってどうなんとか思ったけどまぁいいや。