魔界近郊

□★キズナ
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1【会合】





「これで全員、か。呆気なかったな」

「実る前に摘み取ったんだ、こんなもんだろう」

 冷たい床の温度が、直接肌に感じられた。でも、どろりと生暖かい血の感触も同時に自分の体に纏わりついていて、眩暈がしそうだった。うつ伏せのまま息を殺し、泣き出しそうになるのを必死に堪えた。彼ら≠ノ見付かるわけにはいかない。背中に受ける重みは、どんどん増してくるように思えた。これは、命の重み。覆いかぶさるように倒れた母さんの体が、私を隠し、守ってくれていた。

 ――お願い、早く行って――!!

 ぴちゃぴちゃと、歩き回る音がする。きっと、一面に溢れ出た血を踏む音。人間の体の中にはこんなに血があったのかと、青ざめた意識の中、他人事のように思う自分もいた。この骸達は、他人とは言い難い。皆、彼女の家族だったものだった。

 いつも優しくしてくれた。時には怒られもしたけれど、かけがえのない存在。
ついさっきまでは、大きな机を囲んで一緒にご飯を食べていたのに。おかずに大好きな包み焼きがあったから、いつもに増して楽しい時を過ごしていた筈だった。それが、たった一度きりのノックで、崩れ落ちていくことになろうとは――。





 コン。

 ドアが鳴った。それきり、再度叩かれる気配もない。ノックにしては、妙だとは思った。風で飛ばされた何かが当たっただけだと済ませてしまえばよかったのかもしれない。だが、妙な感覚が胸を捕らえて離さない。他の家族達がわいわいと食事を続ける中、一つ下の妹が何かに引き寄せられるようにドアに近付いた。

 そうか、あの子も気付いたんだ。

 三歳になったばかりで、何もかも覚え立てで、出来ることはとにかくやってみたい年頃だった。胸騒ぎはぬぐえなかったけれど、気のせいだと思ってドアノブに手をかける妹を見守った。

 ドアが開いて。

 出迎えの挨拶を口にすることなく、妹は、肩から血を噴出し頭から倒れていった。

 それからは、まるで幻想のような、自分の現実じゃないような気がして――。

 目の前の光景を、ただ、眺めていた。





(1は続く。)
高校時代に書いた,『シンクロ』の焼き直しです。

初っ端から死体山盛りって……(因みに,シンクロでもこんな出だしでした)。
でも,必要な描写なんですよ(主張)!

頑張って書いたのに謎の文字化けに襲われたり,そういう話に限って控えを取らず直接打ち込んでいたり,とか不運に見舞われた記憶があります……。
打ち直し……辛かった……。
当時はとても短くまとめていたので,今回は頑張って細かく書いておこう!
……と思ったのですが,やはりページが足りず色んなヶ所を端折りました……(T△T)
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