小説2nd
□if・前編(関徐)
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「・・・・・」
月の光も届かない、冥く静かな空間。
その空間で、女は艶かしく彩った長い爪を器用に動かし悪戯をするようにカードを玩ぶ。
一枚、また一枚と捲られていくカード達を見て、国を滅ぼすほどに麗しい女は一人、妖艶な微笑みを浮かべた。
「ウフフ…『太陽』と『星』に護られながら、『運命』も味方につけた幸せな人…でも一人ぼっちな『月』の憎しみで…」
女は実に愉しそうに玩んでいる。
女の前の玉座に座っている屈強な男にはその行動が理解できなかった。
「…何をしているのだ?」
男が訊くと、女は小さく笑い返す。
「下界のヤツらが狂信してる『占い』ってやつをやっていたんですよ?」
妖力のない下界のものがやっても当たるワケがないのにねぇ?と女はクスクス笑う。
綺麗に並べられ、ほとんどが捲られたカード達。
最後の一枚が頼りなさ気にポツンとあった。
それを捲ろうとした細い指が、直前でピタリと止まる。
「…なんか飽きちゃったなぁ。こんなのに狂信するなんて、ホントに下界のやつらって馬鹿よねぇ〜…クスクス…」
退屈そうにそう呟き、カードの上で指を一回、クルンと円を描くように廻す。
すると、並べられたカードが一気に紅蓮の炎に包まれていった。
役割を果たすことなく、黒い煙をあげながら無様な欠片に為り果て、散っていくカード達。
その中で、捲られるはずだった最後の一枚が、フワッと舞い上がり死の火炎から逃れた。
風もないのに呷られて、舞うように空中を踊るそのカードは、
本来描かれているはずの優雅な絵柄など何もない、
不気味なほどに、『真っ白』のカードだった。
(…『太陽』と『星』の加護を得て、『運命』にも恵まれた幸福の者…しかし、孤独な『月』の裏切りによって、最後は『死神』に微笑まれるだろう…)
『if』
―――何も絵描かれていない絶望のカードは、ヒラヒラと彷徨い、
床の無造作に散らばった写真に、
『正しい位置』で重なる。
重なり合った二つの紙、『空白』のカードの真横には、徐晃が幸せそうな表情で笑っていた…