鳳凰の巣

□★例えるならば、気付けば隣にいるだとか。
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さよならすら言われなかった

さよならすら言えなかった



離れた後で泣いた俺

離れる前に泣いた僕



あんたが好きだった

君を愛していました



だから
そう
今はただ、
あの時の埋め合わせを。



そしてずっと…
ずっと。
ずっと。


───側に……




例えるならば、
気付けば隣にいるだとか。









「弁〜慶☆終わったぜ?」

「おや、早かったですね」



宵口を回った時間、ヒノエはにこやかに弁慶にそう告げた。

それまで書物に目を通していた弁慶が顔を上げヒノエを見上げる。


「まぁ、いつもの事だしな。書物類はあっちで、薬や薬草は種類別にあそこにまとめたからな。ワケわかんねぇのは其処ら辺だ。あとはあんたの使い易いようにすりゃぁいい」

「ありがとうございます、ヒノエ」



珍しく心のこもった礼に素っ気なく「あぁ」とだけ返し、ヒノエは弁慶に背を向けた。



「…?ヒノエ??」



可愛いヒノエが後ろを向いてしまった。
嫌な仕事を押し付けたせいで拗ねてしまったのだろうか?という弁慶の不安はその次の刹那に消え失せる。



「これで約束は果たしたからな?今度はあんたが守る番だ」



にやり、とヒノエの口角が上がったが弁慶には見えなかった。



「……約束…?」



ヒノエの言葉を繰り返し、記憶を反芻する。
昼間掃除を依頼した時の会話の一部を確認した。



「『ちゃんとお礼はしますよ』…でしたよね?」

「…『夜付き合ってくれるならやる』って俺言ったよな?」



───間───




「何ですかそれ…今初めて聞きましたけど……」



幾ら記憶を遡っても、ヒノエがそんな条件を指定した覚えはない。
弁慶に普段表に出ない焦りが生じる。



「そうだっけか?もう年だな、そんなの聞こえねぇなんてよ」



いけしゃあしゃあと言ってのける確信犯に肩を落とす弁慶。



(あぁ、この子は確実に僕の甥ですね…/泣)

「…僕も男です。証拠を出せ、なんて小さな事は言いません。何に付き合って欲しいんですか?」




弁慶はにこ、といつもの笑顔を少し歪めて用件の細部の説明を求めた。



「勿論、俺との大人の時間☆」



素晴らしいご機嫌っぷりでヒノエは弁慶を優しく抱きしめた。



「…やはり証拠として書文の提示を求めます」



はぁ、と短い溜め息を吐きその手をやんわりと掴んで離させた。



「男が前言を翻すなんざ言語道断だv却下。」

「何気容赦ないですね…」



冷や汗が弁慶の頬を伝って落ちる。



「あんたに容赦してたら丸め込まれて約束もおじゃんだからな」



さらっ、と告げられる皮肉めいた言葉に溜め息が漏れた。

ヒノエは弁慶ににこりと微笑むとそのまま黙ってしまった。



「………。分かりましたよ」

「よし、これで合意は得たな。じゃあ遠慮なく☆」



今までで一番大きな溜め息の直後、ヒノエの笑みが怪しく変化する。

───ぞくり。

弁慶の背中に悪寒が走った。



「え、今からですか!?」

「おぉ。」



軽々と自分を持ち上げたヒノエの背中に驚愕の声を投げ、僅かにみじろぐ。
しかしヒノエは慌てる事もなく問い掛けに肯定を示した。



「あ、別に此処でもいいか。」





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