女郎花を胸に

□七文字に秘められた愛
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幸鷹はいつもの様に翡翠の邸(隠れ家)へと来るように仕向けられた。

「…ま、何度も引っかかる私も私なんですがね」

独白する幸鷹のその手には文が握られていた。

『───検非違使別当殿へ

霜の立つ季節となり、寒さも日に日に増すばかりではあるが如何お過ごしかな?

(中略)さて…挨拶も程々に、失礼ではあるが用件に入ろうか。

今私は四条の邸に身を置いている。近々海賊の仕事をしようと考えているのだよ…どう出る?

身体を大事に、風邪にはくれぐれも気をつけてくれ。
仕事も程々にね。

伊予の潮風』

勿論海賊の仕事をする、というのは偽り。
本当にするならわざわざ居所や教えて予告する意味はない。
つまり、この文を要約すると…『会いたいから来ておくれ』という事だ。

「はぁ…」

来ない訳にはいかない。
万が一この予告が本当だったら困るのも責任が降りかかるのも自分だからだ。

「…誰を想っての溜め息だい?私である事を祈るがね」

突然現れた翡翠はぎゅと幸鷹を背中から抱き寄せる。

「───…他の誰かだったら…此処に来なくて済みましたよ」

決して振り向かず、幸鷹は空を仰いで溜め息と同時にそう吐き出した。

「中に入ろうか、幸鷹…それにしても随分寒々しい恰好で来たんだね?こんなに冷えて…」

普段着の幸鷹の背に手を当てて、中へ入るよう促す。

「私が冷たいのはいつもの事ですよ…態度も含め、ですが」

「…確かに…」

ふふ、と皮肉を込め、翡翠の手を軽く叩き落とす。
翡翠は納得した上で苦笑した。
その次の一瞬、幸鷹は翡翠を見上げた。

「…翡翠…」

何かが違う。
幸鷹は何となく違和感を覚えて翡翠の名前を呼んだ。

「?何だい、幸鷹」

返事や態度に変わった所は特に何もない。

「………いえ…何でも…」

違和感を感じる理由が分からない以上、そう答える他ない。
二人はともかく中に入り、互いに近況報告をした。





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