鳳凰の巣

□★光在らぬ常世の無情
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「…怒鳴って悪かった……ゆっくり寝てな」

さら、と少しクセのある蒸栗色の髪を撫でて謝罪し、ヒノエは立ち上がった。

「何処へ………??」

僅かな軋みに反応したのか、弁慶はか細い声で訊ねる。
ヒノエの足が止まり、顔だけ振り向く。

「……散歩。」

一言だけ呟いてヒノエは走り去ってしまった。
本当は目を治す方法がないか探しに行くのだが、わざわざ言うのは無粋だ。

「───…早く、帰って来て下さいね…」

目が見えない所為か、ひどく心寂しい。
そして他の器官がやけに澄んでいくのがわかる。


───"一人"とは、こんなに静かだっただろうか?


「譲です。…弁慶さん、雑炊作ったんですけど食べられそうですか?」

その静寂を裂いたのは、食事を運んできた譲の声。
わざわざ名乗ってくれる心遣いが嬉しくて、思わず微笑む。

「…残念です」

「え!?何がですか?」

言葉から察するに、食べられないのだろうかと杞憂する譲。

「さっきまでヒノエがいたんですよ。だからヒノエがいたら食べさせてもらえたのにな、と」

ふふ、と笑みを零して弁慶が理由を口にすると譲は納得して頷いた。

「あぁ…そういう事か…」

美味しそうな匂いに空腹を感じて、弁慶は見えない瞳を細めた。

「でも食べられそうですから大丈夫ですよ。ありがとうございます…譲君」

目が見えない以外は特に具合が悪い訳ではないので、譲ににこりと微笑を向ける。

「いえ…じゃあ食べ終わったら部屋の外に出しておいて下さいね。頃合い見計らって回収しますから」

つられてにこ、と笑みを返し、譲は部屋をあとにしようと立ち上がった。

「あ。そうだ…弁慶さん」

譲が何やら思いついたように弁慶を振り返る。

「?はい…??」

「騒がしくていいなら…後で先輩や九郎さん達を連れて来ますが…やっぱりゆっくり寝ていたいですか?」

譲の心尽くしに胸が熱くなる。
自分は"一人"などではないのだ、そう思わせてくれる仲間。

「ありがとうございます…譲君。君が女性で、僕がヒノエに会っていなかったら妻に欲しい位ですよ」

「えっ…ちょ、何言ってるんですか弁慶さん!!」

譲に感謝の意を伝えるついでに少しからかってみると、譲は反応に困ったような声を返した。

「そうだよ、譲くんは私のだもんっ!私のお嫁さんだもん(?)」

「うわ、先輩!?いつの間に…」





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