学園果実.

□:化学室.
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『この棚にある薬品は危険な物です、教員の許可なく使わないで下さい』
「………」

そんな薬品生徒の目が届く場所に置かないでよ、とGさんは心の中でつぶやきました。

まさかと思い、Gさんは手の中の薬品を見下ろしました。

「やっぱりこれ、この棚の薬品じゃん」

ラベルの番号と棚に並ぶ薬品の不自然なすき間を見て、Gさんは頭をおさえました。

「先生がしまい忘れちゃったのかなあ」

危険な薬品に触れたことを気にせず、Gさんは先生の愚痴をブツブツと言っていました。

その時のGさんは、自分の身体に起こっている変化に気づくことは出来ませんでした。

「あ、れ」

ガチャン、とGさんは薬品の瓶を床に落としてしまいました。

その割れたガラスの上に倒れたGさんは、ピクリとも動かなくなってしまいました。

(あれ、動かない)

目を大きく開いたまま、Gさんは動けないことを他人事のように考えていました。

聴覚は音を遮断して、嗅覚は臭いを遮断して、味覚は味を遮断して、触覚は温度を遮断しました。

視覚のみ残されたGさんのぼんやりした視界に、それは映ったのです。

(何これ、人魂?)

ポウ、ポウと空中に赤い炎や青い炎が蛍のように浮かんでいました。

緑や黄色、水色や桃色などの炎色反応でしか見たことのない色の炎も現れて、Gさんはその美しさに泣きたくなりました。

(綺麗、だなあ)

ツウッ、とGさんの頬に涙がこぼれると、色とりどりの炎がGさんに集まってきました。

温度も触覚も感じないはずなのに、Gさんはその炎が温かく柔らかいものだと思いました。

(………)

最後に視覚も失ったGさんはそっと目を閉じて、炎に包まれながら意識を失いました。


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