学園果実.
□:音楽室.
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曲を演奏していたのは、二つの手首でした。
女性の物と思われるその二つの手が、鍵盤の上で指を踊らせていました。
「つっ…!!」
言い様のない恐怖に、Bさんは背筋が寒くなるのを感じました。
(どうして、手首が)
早く、逃げなきゃ。
踵を返して、ピアノに背を向けたその時でした。
「ひっ!!」
バーン、と沢山の鍵盤を両手で叩いたような大きな音が響きました。
その音はBさんを引き止めるように鳴り、演奏をやめてしまいました。
「ご、ごめんなさい」
沈黙が怖くて、Bさんは謝りました。
それでもピアノは黙り続けて、Bさんを精神的にジワジワと追い詰めていきます。
「演奏の邪魔をして本当にごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」
金縛りにあったように身体は動かなくて、Bさんは繰り返し謝りました。
二つの手首は鍵盤から指先を離して、空中を浮かびながらBさんに近づいていきました。
「ごめんなさい!!もう出て行きますから許してください!!ごめんなさいごめんなさい!!」
Bさんの悲痛な叫びが聞こえないのか、二つの手首はBさんと距離を縮めていきました。
そして、手首はBさんの目の前まできました。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
Bさんの悲痛な叫びが、防音設備が整った音楽室に響き渡りました。
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