人形家族.

□:編みぐるみ.
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「うっ、」

気がつくと、Kくんは部屋のドアの前で横になっていました。

泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしく、窓の外はすでに真っ暗になっていました。

「さむ、い」

ブルリと身体を震わせた直後、Kくんはあることに気がつきました。

「ウサギ、」

抱きしめていたはずの編みぐるみが、Kくんの両手からいなくなっていたのです。

探さなくては、とKくんが起き上がると左の小指に違和感を感じました。

「な、に」

Kくんが小指を見ると、雪のように白い毛糸が結んでありました。

白い糸は、ドアの向こう側に繋がっていました。

(ウサギはどこに消えたんだ、誰が白い糸を僕の小指に結んだんだ)

意味がわからないまま、Kくんは部屋の鍵をあけてドアを開きました。

「いてっ!!」
「!!」

ドアを開くと、そこには弟さんがいました。

弟さんは部屋の扉に寄っかかっていたらしく、腰を撫でていました。

「馬鹿か!!開けるなら言ってから開けろよ!!」
「すまない、お前がいるなんて思わなかった」
「あ、」

ボリボリ、とばつが悪いのか弟さんは頭をかきました。

「!!お前それ、」
「あ?」

その手の小指には、Kくんと同じように白い毛糸が結んでありました。

「な、何だよこれ!!一体誰がこんなの」
「うわ、」

グイ、と弟さんが白い糸を引っ張るとKくんの身体がよろけました。

「あ、おい!!」
「!!」

ポスッ、と咄嗟に弟さんはKくんを支えました。

それと同時に、弟さんの顔が赤く染まりました。

「すまない、どうやらその糸は僕の指と繋がっているようだな」
「なっ、」
「ふむ、運命の赤い糸は聞いたことがあるが白い糸は聞いたことがない。お前、何か心当たりは」

Kくんはその時、話すことが出来ませんでした。

何故なら、Kくんの口が弟さんの唇で塞がれてしまったからです。

「………」
「………」

は、と弟さんはKくんから唇を離しました。

Kくんは、目を大きく開いたまま動かなくなっていました。

「K、何か反応しろ」
「………」
「もう一回するぞ」
「!!」

正気に戻ったのか、Kくんはビクリとしました。

そして、無表情のまま顔を赤くしました。

「お、お前は何を考えているんだ」
「何って、Kのことしか考えてねえし」
「は、」

ギュ、と弟さんはKくんを抱き締めました。

「K、好きだ」
「!!」

突然の告白に、Kくんは硬直しました。

「少女趣味が、気持ち悪いのではなかったのか」
「あれは、お前が人形ばかり見て俺に構ってくれなかったから」
「兄とは呼べない、と」
「普通実の兄にキスしたいなんて思わねえよ!!」
「………」

弟さんの不器用な愛情に驚いて、Kくんは何も言えませんでした。

「あとさっき酷いこと言って悪かった、Kが男のこと好きじゃないって言ったからついムシャクシャして」
「………」
「しかもK泣くし、俺どうしたらいいかわからなくなって」
「だからお前、ずっと僕の部屋の前にいたのか」
「………」

コクリとうなずく弟さんの背中に、Kくんも手を回しました。

服ごしでも、体が冷えているとわかりました。

「すまない」
「K、」

弟さんの身体の震えを押さえるように、Kくんは顔を寄せました。

「お前の気持ちに応えられるか、わからない」
「わからない?」
「ああ」

血の繋がり、同じ性。

二重の禁忌を持つ相手を好きになれるかと問われたら、難しい。

「今気づいたが、僕はお前が結構好きだ。でもお前は男で弟だ」
「そう、か」

グッ、と弟さんはKくんの頭を引き寄せました。

「それなら俺は頑張る、Kが血の繋がりとか同性とか気にならないくらい俺を好きにさせてみる」
「な、」
「Kを夢中にさせる」
「………」

カア、とKくんは耳まで熱くなりました。

(何か、もう駄目だ)

先ほどまでウサギの編みぐるみで頭がいっぱいだったのに、今のKくんは弟さんで頭がいっぱいでした。

だから、Kくんは気づかなかったのです。

Kくんと弟さんを繋ぐ白い毛糸の真ん中に、黒いリボンが結んであることに……。


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