人形家族.

□:あやふや人形.
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その日の夜、Iくんはあやふや人形を抱きしめながらベッドに横になっていました。

「うぅ、眠れないよお」

ガバッ、とIくんは布団をはがしてベッドから起き上がりました。

(お姉ちゃん、まだ起きているかなぁ)

あやふや人形をギュッと抱えて、Iくんはお姉さんの部屋に行きました。

「お姉たん起きてる?」

ガチャ、とIくんはノックもせずにお姉さんの扉を開けました。

「お姉たん?」
「すぅ、すぅ」

Iくんが部屋に入ると、お姉さんはベッドの上で眠っていました。

さすがにお姉さんも寝る時は布をとっていて、顔をうつ伏せにして寝ていました。

(今なら、お姉たんのお顔見られるかな?)

物心ついた時から、Iくんはお姉さんの顔を1度も見たことがありませんでした。

美人なのか、不細工なのかとIくんはいつも顔を想像していました。

(お顔見たいな、でもお姉たんは駄目だって言ってたよね)

もしも、あやふや人形のように布を取ることがお姉さんのアイデンティティの問題だったら。

「う、うぅ」

Iくんは首を振って、お姉さんの部屋から出ることにしました。

早く部屋を出よう、とIくんがドアノブに手をかけたその時でした。

「よく我慢したわね」
「!!」

聞き慣れた色香を含んだ声に振り向くと、そこには布をかぶっていたお姉さんが立っていました。

「お姉たん、いつから」
「Iが私の部屋に入った時からかしら」

つまりは最初から。

Iくんがオロオロとしていると、お姉さんは布の下でクスクスと笑っているようでした。

「そんなに困らなくてもいいわよI、怒ってなんていないから」
「ほんと?」
「ええ、だってIは私の顔を見なかったもの」

優しい声色で言うと、お姉さんはIくんを静かに抱き上げました。

その手は冷たくて、かすかに震えていました。

「ねえお姉たん、どうしてお姉たんの顔を見たらいけないの?お姉たんが美人でも不細工でもお姉たんはお姉たんなのに」
「そうね」

ギュッ、と不意にお姉さんはIくんの身体を抱きしめました。

Iくんも思わず、お姉さんの背中にあやふや人形を持っていない手を回しました。

(見なくてよかった)

もし見てしまったら、何かが壊れてしまいそうだったから。


その日からIくんは、お姉さんの布を決して取ろうとはしなくなったそうです……。


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