人形家族.

□:カカシ.
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その日の夜、Fくんが寝ているとパチパチと音が聞こえました。

(この音、何かを燃やしているような)

気のせいか、こげ臭い臭いもしてきました。

Fくんはいてもたっていられず、ベッドからおりました。

(家の中じゃない、音も臭いも庭からきている)

一瞬カカシの姿が頭に浮かびましたが、Fくんは首を振りました。

(カカシが悪い物を近づけさせないように何かしている、とか考えるのは間違いですよね)

Fくんはパジャマの上に上着を羽織って、庭に向かいました。

カカシが立っていた場所に走ると、そこには予想もしていない光景がありました。

「お、お兄さん?」
「!!」

そこにいたのは、顔を強張らせてぼんやりと立っているお兄さんでした。

お兄さんの足元には、全身に炎を焼かれているカカシが倒れていました。

お兄さんの手に、ライターが握られていました。

「お兄さん、どうしてカカシを燃やしているんですか?」
「これは悪い物だから」
「え?」

お兄さんはライターを草むらに投げて、Fくんに近づきました。

松葉づえを不器用に動かしてFくんのところにたどり着くと、お兄さんは笑いました。

「このカカシはFに近づいて悪いことをしようとしていたんだ、だから俺はコイツを燃やしてやったんだよ」
「なん、で」
「何で?」

俺がFのカカシだからに決まってんじゃねえか。

そう言って、お兄さんはFくんを力なく抱きしめました。

見かけに反して弱々しい身体に驚きながらも、Fくんはお兄さんの背中に手を回しました。

「よくわからないんですけど、お兄さんは俺を助けてくれたんですね」
「ああ」
「カカシが悪いことをしようとしていたので、お兄さんが燃やしたと」
「ああ」
「………」

信じがたい話だけど、Fくんは信じるしか出来ませんでした。

何故なら、すでにカカシは炭となってくすぶっているのですから。

「お兄さん、あの」
「こらF!!」

ハッとして振り向くと、そこにはFくんのお母さんがいました。

お母さんはFくんの肩を抱いて、叫ぶように言いました。

「お母さん、」
「こんな時間に1人で何しているの!!たき火を片づけて早く寝なさい!!」
「す、いません」
「Fは大事な1人息子なんだから、風邪引かないでちょうだいね」

はあ、とため息をついてお母さんは家の中に戻っていきました。

「相変わらずすげーな、俺たちのお袋さんは」
「そうですね」

返事して、Fくんはあることに気がつきました。

(お母さんは今、何て言っていましたか?)

お母さんの言葉を思い出し、Fくんは息を飲むような緊張を覚えました。

『こらF!!』
『こんな時間に1人で何しているの!!』
『Fは大事な1人息子なんだから』

(ひとり、)

ゾクリ、とFくんは寒気がしました。

「おいF、どうした?」

兄に返事を返せなくなるほど、Fくんは頭が混乱していました。

(僕は今1人なのか?僕が1人っ子だって?)

それならお兄さんは、誰だというのか?

「おにい、さん」
「どうしたF」

カカシに燃やされるべきだった本当に悪い物は、誰だったのだろうか。

(ああ、考えなくても悪い物はわかるのに)

Fくんは、お兄さんを見上げて言いました。

「お兄さん、これからもずっと僕だけのカカシでいて下さいね」
「あ?当たり前だろ」
「約束、ですよ」

炭になったカカシを足で踏みつけて、Fくんはお兄さんに笑いました。

燃えたカカシの臭いを嗅がないように、Fくんはお兄さんの胸に顔を深く埋めました……。


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