人形家族.

□:操り人形.
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その日の夜、Cくんは机に向かって受験勉強をしていました。

教科書とノートを見比べていると、不意にコンコンとドアを叩く音が聞こえました。

「はい」
「兄さん、起きてる?」

ガチャ、と承諾も得ずに扉を開けたのはCくんの弟さんでした。

機嫌がいいのか、ニコニコと笑っていました。

「ああ君か、こんな夜中にどうしたんだ」

その時、弟さんの手に握られた物を見てCくんは顔を強張らせました。

「君、その人形」
「ああ、人形師さんにもらったんだよ」

手足に糸を巻きつけた木の人形は、間違いなくあの操り人形でした。

Cくんに操り人形を渡せなかった人形師は、仕方なくCくんの弟さんに渡したのでしょう。

「そ、そんな人形持って何か用か?」
「うん、実は試したいことがあって」
「試したいこと?」
「うん」

弟さんは操り人形を持ち上げると、人形の顔の側面に顔を近づけました。

「兄さん、立って」
「!!」

その瞬間、Cくんの身体が金縛りにあったように動かなくなりました。

そして、意思と関係なくCくんの体は椅子から立ち上がりました。

「え、え?」
「兄さん、そのまま僕のトコまで来て」
「ひっ」

Cくんの体は、意思とは関係なく勝手にスタスタと歩き始めました。

Cくんが弟さんの前まで足を進めると、待ちかねたように弟さんはCくんを抱きしめました。

「兄さん、捕まえた」
「これは一体、どういうことなんだ」

弟さんの意思で自分の体が動いてしまうことに、Cくんは恐怖を覚えました。

まるで、自分の体じゃないようだと。

「人形師さんが言っていたんだ、この操り人形に好きな人の髪の毛をくくりつけると、操り人形に命令するだけで好きな人が言いなりになってくれるんだって」
「は、あ?」

それこそ本物の操り人形じゃないか、とCくんは寒気がしました。

「髪の毛って、君はいつの間に手に入れたんだ」
「今日玄関で肩を叩いた時だよ、兄さんの髪って綺麗だよね」

サラリ、と弟さんはCくんの髪を撫でました。

ゾクリ、とCくんは鳥肌がたちました。

「まさか、君の好きな人は僕だと言いたいのか」
「うん」
「僕は君の血の繋がった兄で、しかも男だ。僕にそんな趣味はないし、君を弟以上に見られない」
「知ってる」

だから操り人形に頼ることを決めたんだ。

Cくんは、弟さんが操り人形に顔を近づけるのを見ました。

「待て、君は何を言おうとしているんだ」
「兄さん、ゴメンね」

謝罪をして、弟さんは人形に小さく言いました。

「兄さん、僕を愛して」
「!!」

Cくんはその瞬間、言い様のない気持ちで胸がいっぱいになりました。

ポロポロと涙を流したまま、Cくんは意識を失いました……。


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