不幸携帯.

□:充電.
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「はーあ、hくんのせいで気分が台無し」

不機嫌な顔で、Hさんは閑静な住宅街をスタスタと歩いていました。

「早く携帯を充電しないといけないのにさ、マジしつこい」

ブツブツとhさんに対する愚痴を言いながら、Hさんは早足で歩いていました。

あと少しで家に着く、とHさんが思ったまさにその時でした。

「えっ」

ピリリリリ、と聞き慣れたかん高い電子音が鳴り響きました。

「な、んで」

それは、充電が切れていたはずの携帯電話から聞こえていました。

Hさんは、バッグから慌てて携帯電話を取り出しました。

「あつっ」

携帯電話は体温よりも熱くなっていて、まるで熱湯のようでした。

その熱に耐えながら、Hさんは携帯電話をパチンと開きました。

「なっ、え?」

画面を見ると、Hさんは目を見開きました。

画面の左上にある電池のマークは、充電の必要性を示す空っぽの電池のマークでした。

電池がないのにどうして携帯電話が動くの、とHさんが驚いていると画面がおかしいことに気がつきました。

「何これ、何の数?」

画面には、大きな数字が時計のように数を刻んでいました。

しかし数字は、9、8と時計と反対に数を数えていました。

「ちょっとやだ、気持ち悪いんだけど」

7、6と画面の数字は時を刻みました。

不気味な現象に怯えてHさんは電源を切ろうとしましたが、電源は落ちませんでした。

「やだやだ!!どうして電源が落ちないのぉ!!」

5、4と画面の数字は時を刻みました。

電源が落ちない携帯電話を見て、Hさんは頭が混乱してしまいました。

「やだやだやだやだ!!早く止まってよお!!」

3、2と画面の数字は時を刻みました。

グシャグシャに泣きじゃくりながら、Hさんは携帯電話のボタンをポチポチポチポチとバラバラに押し始めました。

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!」

1、と画面の数字は時を刻んだその時です。

シュウ、と音を立ててHさんが手にしている携帯電話から黒い煙が漏れだしました。

高い熱を帯びた携帯電話からこげ臭い臭いがただよい始めて、ピキッと画面にヒビが入りました。

「いやあああああ!!」

パン、とHさんが叫ぶと同時に携帯電話が大きな音を立てて弾け飛んでしまいました。

携帯電話の部品や充電パックの一部、布で出来たストラップなどありとあらゆるものが全て細かくなって辺りに散らばりました。

「あ、あ」

Hさんは呆然として、さっきまで携帯電話を持っていた右手を静かに見下ろしました。

火傷で赤く膨れた右手は携帯電話の破片で無数の傷を作っていて、また肉が剥がれて血まみれになっていました。

携帯電話を打っていた親指はグチャグチャになっていて、赤い肉の下から骨が見えていました。

「けい、たい」

Hさんは、原型をとどめていない親指を気にする様子もなく地面にバラけた携帯電話の部品を見回しました。

しばらくして、Hさんは左手で携帯電話の部品を集め始めました。

「じゅうでん、はやくじゅうでんしなきゃ」

Hさんの目はうつろになっていて、もう二度と正気に戻ることはありませんでした。


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