学園果実.

□:中庭.
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これは、私が高校2年生の時に担任のリンゴ先生から聞いたお話です。


『:中庭.』


リンゴ先生の教え子に、Tさんという女の子がいました。

Tさんは園芸部に所属していて、いつも中庭にある花壇のお世話をしていました。

ある日の夕方、Tさんは水を入れたジョウロを持って中庭の花壇に向かいました。

中庭の草木や花たちは夕陽を浴びて、幻想的な世界を創っていました。

(別世界にいるみたい)

人骨のような枯れ木は秋の冷たい風に吹かれてギシギシと音を立てて、手のひらの形をした葉を散らしていました。

血のように赤く濁った池には爪のような鱗を持つ魚が何匹も泳いでいて、肉のような赤いエサをモチャモチャと鋭い牙でかじっていました。

(まるで本に出てくるゴシックホラーの世界ね)

Tさんは、そんな不気味な世界が好きでした。

「あ、水をやらなきゃ」

当初の目的を思い出し、Tさんは花壇に向かいました。

花壇に均等に並んだ白や黄色、黒のパンジーは人の顔のような花を咲かせていました。

「本当に人だったら、面白いのにな」

恐ろしいことを平然と言いながらTさんがジョウロをかたむけると、チョロロロと水がシャワーのように流れ落ちました。

赤い、水でした。

(まあ、水が赤くなることぐらいあるわよね)

Tさんは特に驚くこともなく、ジョウロの中の赤い水を一滴残らず全部パンジーにやりました。

血を浴びたようなパンジーは赤く染まっていて、Tさんはニヤリと口元をつり上げました。

「本当に人だったら、面白いのにな」

Tさんは先ほどと同じことを言うと、パンジーの茎を指でつまみました。

ズブズブズブ

音を立ててパンジーを根ごと引き抜くと、パンジーに異変が起きました。


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