学園果実.

□:調理室.
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これは、私が高校2年生の時に同級生のイチゴさんから聞いたお話です。


『:調理室.』


イチゴさんの後輩の同級生に、Iさんという女の子がいました。

Iさんは料理が上手で、将来の夢は調理師か栄養士になることでした。

そんなある日、Iさんが廊下を歩いていると調理室から美味しそうな香りがただよってきました。

(何これ、いい香り)

肉を焼くような香りや野菜を煮込むような香りにつられて、Iさんは調理室に向かいました。

(これ、一体誰が作っているんだろう)

そっと扉を開けて中をのぞくと、エプロンをつけた女子生徒が黙々と料理をしていました。

野菜を切る包丁さばきや下ごしらえの手つきは慣れたもので、料理をするIさんも驚くほどです。

(この人、すごいな)

もっとよく見よう、と顔を近づけたその時です。

「うわ!!」
「………」

まな板に向かっていた女子生徒の視線が、Iさんに向けられました。

「ゴ、ゴメンなさい邪魔しちゃって」
「………」

小さく笑って、女子生徒はIさんの所まで歩いていきました。

扉を開くと、女子生徒は調理室の中を手で差し示しました。

「あ、もしかして中に入っていいんですか?」
「………」

うなずくと、女子生徒はIさんの手を握ってテーブルクロスがかけられた机に向かいました。

女子生徒が椅子を引いて座るように促すと、Iさんはオズオズと腰を下ろしました。

「あ、すいません」
「………」

静かに笑うと、女子生徒は料理に戻りました。

Iさんは、女子生徒の料理を見つめていました。

(この人、家がレストランか何かなのかな)

女子生徒が作る料理は、どれも素晴らしいものばかりでした。

大根とトマトを使ったサラダから始まって、じっくり野菜を煮込んだスープ、メインディッシュのマッシュポテトを添えたステーキとガーリックライス、デザートの赤ワインゼリー。

次から次へ完成する料理は美しく繊細で、Iさんは素直に感動しました。

「あの、これは」
「………」

女子生徒は何も言わずにナイフとフォーク、スプーンをIさんの前に丁寧に並びました。

Iさんに丁寧に折りたたまれたナフキンを渡し、女子生徒は机の上の皿を手で示しました。

「も、もしかして食べていいんですか?」
「………」

女子生徒がうなずくと、Iさんはすぐさまフォークをとりました。

調理室から漂う香りを嗅いでからずっと、この料理を食べたくて仕方がなかったのです。

マナーを気にせず犬のようにガツガツ食べるIさんを、女子生徒はただ黙って見つめていました。


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