人形家族.

□:土人形.
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これは、僕が高校1年生の時に2つ年上の姉であるクモリ姉ちゃんから聞いたお話です。


『:土人形.』


クモリ姉ちゃんの知り合いの友だちに、Qくんという男の子がいました。

ある日、Qくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。

「これ土人形だー、日本史の教科書で見たことあるから僕知ってるよ」
「あ、そうなのか?じゃあ土偶って言った方が馴染み深いか」

Qくんがもらった不思議な人形は、赤茶色の土で出来た土人形でした。

乳房や膨らんだ下腹部が表現された女性の土人形は優しい目をしていて、両手でしっかりとお腹を支えていました。

「土人形は母神像としても有名な人形だからな、安産祈願のお守りにもなると思って作ったんだ」
「え?僕は男だよ?」
「バカお前じゃねえ、お前のお姉さんだよ」

ああ、とQくんは手を叩きました。

「人形師さんアネさんのお腹見た?すっごく大きかったでしょー」
「ああ、しかしお前のお姉さんに恋人がいるなんて全然知らなかったよ。いつもお前といたし」
「え?アネさんに恋人なんていないよ?」
「え?」

Qくんと人形師は、二人して首をかしげました。

「おいお前、何言っているんだ。じゃあ父親は誰だっていうんだよ」
「僕だよー」
「は、」
「僕が弟欲しいって言ったらアネさんが産んでくれるって言ったんだー、だから僕がお父さん」
「え、じゃあ」
「アネさんとギューッていっぱいしたんだー」
「………」

人形師は、目を見開いて汗を流しました。

「嘘、だろ」
「本当だよー」

ペコリ、とQくんは土人形を抱えて人形師にお辞儀をしました。

「人形師さん、お人形ありがとうございました」
「あ、ああ」
「赤ちゃんが生まれたら一番に教えてあげるね」
「………」

無邪気に笑って、Qくんは足どり軽く家に帰っていきました。

「たっだいま!!」
「ああ、Qか」
「アネさん!!」

家に帰ったQくんを迎えてくれたのは、マタニティーウェアを着たお姉さんでした。

Qくんは靴を脱ぐと、すぐにお姉さんに飛びつきました。

「アネさんただいま!!赤ちゃんもただいま!!」
「ふふ、お帰りQ」

Qくんがお姉さんのお腹に頬をすり寄せると、ドクンドクンと不思議な音が聞こえました。

「これ赤ちゃんが動いている音?」
「いや、これは私のお腹の音だよ」
「なんだあ、アネさんのお腹の音かー」

Qくんとお姉さんは、笑い合いました。

「それじゃあQ、一緒に手洗いとうがいをしに行こうか」
「うん!!」

Qくんとお姉さんは手をつなぐと、仲良く並んで廊下を歩き始めました。

「あ、アネさん。人形師さんから土人形もらったからあげる。安産祈願のお守りだって」
「人形師さんから?これは嬉しいな」
「アネさん、元気な子ども産んでね?」
「ああ、もちろん」

その時浮かべたお姉さんの表情は、どこか歪んでいました……。


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