人形家族.
□:匂い人形.
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これは、僕が高校1年生の時に1つ年下の弟であるユキくんから聞いたお話です。
『:匂い人形.』
ユキくんの知り合いの後輩に、Oくんという男の子がいました。
ある日、Oくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「匂い人形?匂い袋の人形版みたいな物か?」
「まあそんなものだ」
Oくんがもらった人形は手のひらに乗るくらいの大きさで、手触りのよい布で出来ていました。
鼻を近づけると、花よりも優しく香水よりも甘い香りがしました。
「アロマセラピーとかあるぐらいだからな、イライラする時とか嗅いでみろよ、落ち着くから」
「そう、だな」
礼を言って、Oくんは家へと帰りました。
「ただいま」
「お帰りあにさま!!」
Oくんが帰ると、Oくんの弟さんが犬のように駆け寄ってきました。
Oくんの背中に腕を回して頬を寄せてくる弟さんの頭を撫でて、Oくんは笑いました。
「くすぐったい、お前は昔から甘えん坊だな」
「だってあにさまが大好きなんだもん!!」
無邪気に笑い、素直に言葉を紡ぐ愛らしい弟さんがOくんは好きでした。
「あれれ?あにさま変な匂いがするね」
「変な匂い言うな」
苦笑して、Oくんは匂い人形を取り出しました。
「人形師さんからもらったんだ、イライラする時に嗅ぐといいってな」
「ふぅん」
ギュッ、と弟さんはOくんに抱きつきました。
「何か嫌だな、あにさまの匂いがわからなくなっちゃうから」
「そういえば前から言ってたな、俺の匂いが好きだって」
「うん大好き、すごく落ち着けるんだよ」
Oくんが匂い人形の匂いに気持ちを安らげることが出来るように、弟さんはOくんの匂いで気持ちを安らげることが出来るのでしょう。
弟さんは、眠る前のような穏やかな顔でOくんにすり寄っていました。
「また何か、嫌なことでもあったのか?」
「別にお母さんとケンカしたわけじゃないもん」
「ケンカしたのか」
「………」
コクリ、と弟さんは小さくうなずきました。
「僕があにさまのこと好きだって言うとおかしいって怒るんだ、間違ってるって否定するんだ」
「そうか」
まだ幼い弟さんは、同性間や近親間の恋愛が禁忌であることがわからないのでしょう。
かといって何故いけないかを大人が明確に説明出来ないから、子供は混乱してしまうのです。
だから大人は、こう言うのでしょう。
「大人になればわかる」
「あにさまも、お母さんと同じことを言うの?」
「事実だからな」
むう、と唇をとがらせる弟さんの頭をOくんは優しく撫でました。
「ほら早くリビングに行くぞ、お母さんが作った美味しいカレーが待っているからな」
「う、うぅ」
Oくんと弟さんは、二人で仲良くリビングに向かいました。
その時も、弟さんはOくんの手をクンクンと嗅いでいました……。
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