人形家族.

□:編みぐるみ.
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これは、僕が高校1年生の時に1つ年下の弟であるユキくんから聞いたお話です。


『:編みぐるみ.』


ユキくんの友だちに、Kくんという男の子がいました。

ある日、Kくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。

「人形師さん、普通お人形って女の子とか子供にあげるものだと思う」
「まあそう言うなよ、結構自信作の編みぐるみなんだぜ」
「ふうん」

Kくんがもらった試作品の人形は、真っ白な毛糸で出来たウサギの編みぐるみでした。

両手で抱えられる小さな編みぐるみは真っ赤な瞳をしていて、胸に黒いリボンを結んでいました。

「本当に少女趣味だね、全く何でこんな人形を僕がもらわないといけないんだろう」
「とか言いながら、どうして編みぐるみに頬をすり寄せているんだよ?」
「決まっている、僕が少女趣味だからだ」
「………」
「名前何にしよう」
「………」

人の趣味はわからないものだな、と思いながら人形師は家に帰るKくんを見送りました。

「ただいま」
「げっ、Kだ!!」
「おい、実の兄を呼び捨てにするな」
「ウサギの人形抱きしめて家に帰るヤツを兄なんて呼びたくねえよ!!」

玄関でギャアギャアとうるさく言う少年は、Kくんの弟さんでした。

はあ、とため息をついてKくんはスタスタと2階に向かいました。

「おいK待てよ!!話聞けって言ってるだろ!!」
「うるさい、今僕はウサギの名前を考えるのに忙しいんだ」
「気持ち悪いなオイ!!お前本当は女なんじゃねえのか!!」
「いや違うな、僕は男に恋をしたことはない」
「ああそうかよ!!だったらお前頭がおかしいんじゃねえのか!!」

ピタ、と不意にKくんが足を止めました。

それに驚いて弟さんも立ち止まると、Kくんが振り向きました。

「知ってる」
「あ、」
「僕がおかしいことは、誰よりも僕が知ってる」

パタン、ガチャ

Kくんは自分の部屋に入ってドアを閉めると、鍵をしめました。

弟さんはハッとして、ドンドンと強くドアを叩きました。

「おいK言いすぎた!!ここ開けろって!!」
「うるさい、黙れ」
「俺が悪かった!!早くこれ開けろよ!!」
「うるさい」

ポタ、ポタ。

ドアに背をあずけて、Kくんは編みぐるみを抱きしめながら涙を流していました。

その瞳は、編みぐるみのウサギのように赤く染まっていました。


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