人形家族.
□:あやふや人形.
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これは、僕が高校1年生の時に2つ年上の姉であるクモリ姉ちゃんから聞いたお話です。
『:あやふや人形.』
クモリ姉ちゃんの部活の後輩に、Iくんという男の子がいました。
ある日、Iくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「このお人形たん変な布かぶっているね、お名前は何ていうの?」
「これは、あやふや人形っていってんだよ」
「へえ」
Iくんは、興味津々な様子であやふや人形を抱き上げました。
布製の人形は顔を目の部分だけ空けた紫色の布袋で隠していて、まるでクロコのようでした。
「ねえ人形師たん、この布取れないの?」
「取るなよ、あやふや人形から布取ったらただの人形だからな」
「アイデンティティの問題なんだね」
「お、難しい言葉知ってるなお前は」
「えへへー」
なでなで、と人形師さんが頭を撫でるとIくんは嬉しそうに笑いました。
「じゃああやふや人形もらうね、これお姉たんにそっくりなんだー」
「え、」
「それじゃーねー」
バイバーイ、とIくんは手を振って走り去っていきました。
どんなお姉さんだ、と人形師は思いました。
「ただいまお姉たーん」
「あらお帰り」
Iくんを玄関で迎えてくれたのは、Iくんのお姉さんでした。
お姉さんは背が高くてスタイルも良くて、顔に目の部分だけを空けた布袋をかぶっていました。
「お姉たん見て見て、人形師たんにもらった!!」
「あらいいわね」
「でしょー」
お姉さんは自慢気にあやふや人形を見せるIくんを抱き上げて、廊下を歩き始めました。
「人形師たんが布とったら駄目って言ってたの、だからお姉たんも人形の布取ったら駄目だよ!!」
「わかってるわ、だからIも絶対に私の布を取っちゃ駄目よ」
「あ、バレた?」
「だってさっきから私の布グイグイ引っ張っているじゃない」
「えへへー」
「もぅ」
バレちゃった、とIくんは頭をかいて布から手を離しました。
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