人形家族.
□:のろま人形.
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これは、僕が高校1年生の時に2つ年下の妹であるキリちゃんから聞いたお話です。
『:のろま人形.』
キリちゃんの知り合いの知り合いに、Hくんという男の子がいました。
ある日、Hくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「のろま人形?聞いたことない人形だね」
「あんまりメジャーな人形じゃないからな」
Hくんはのろま人形を両手で持つと、まじまじと見つめました。
青黒い変な顔をした木の人形は人間の子供くらいの大きさで、黒い羽織袴を着ていました。
「でも人形って、綺麗な顔だけじゃないんだ」
「それはそうだろ、人形劇でも美人な人形ばかりじゃつまらないしな」
「とはいえ、どの人形が美人かわからないんだけどさ」
「正論だ」
人形師とは思えない言葉を吐いた人形師にお礼を言って、Hくんは家に帰りました。
「ただいまー」
「おかえりなさい、お兄さん」
玄関でHくんを迎えてくれたのは、Hくんの妹さんでした。
妹さんの顔は包帯でグルグル巻きにされていて、すき間から見える目や唇は笑っていました。
「ただいま、父さんと母さんはまだ仕事?」
「はい、残業です」
妹さんは、まるでお手伝いさんのようにHくんの荷物を持ちました。
「ちょ、自分の荷物くらい自分で持てるって」
「お気になさらないでくださいお兄さん、私は好きでやっているのです」
「でも、」
「やらせてください」
妹さんは、学生カバンを持ってスタスタと歩いていきました。
はあ、とHくんはため息をつきました。
「これは恩返しなんですお兄さん。2年前の火事の時、私はお兄さんのおかげで顔に火傷を負う程度ですんだのですから」
「妹なんだから、助けるのは当たり前だよ?」
「それに顔に火傷を負った私に優しく接してくれるのはお兄さんだけ、私にとってお兄さんは全てなんですよ」
「そんなことは」
「実際、あの時から私はお父さんとお母さんに目を合わせてもらっていませんから」
「………」
不憫で可哀想な妹さんをどう励ましたらいいかわからなくて、Hくんはただ黙って前を歩く妹さんを見ていました。
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