人形家族.
□:カカシ.
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これは、僕が高校1年生の時に1つ年上の兄であるアメ兄ちゃんから聞いたお話です。
『:カカシ.』
アメ兄ちゃんの友人に、Fくんという男の子がいました。
ある日、Fくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「人形師さんが色々な人形作っているって聞いてはいましたが、よりにもよってカカシですか」
「ああ、何かイマジネーションが湧いたんだ」
意味がわからない、と言ってFくんは人間の子供くらいの大きさのカカシを見ました。
カカシはワラで出来た笠を目深にかぶり、藍色の服を一枚着ていました。
「でも人形師さん、家に畑がないので、カカシを持っていても全く意味がないのですが」
「じゃあカカシは庭にでも立たせておけよ、昔はカラスよけじゃなくて魔よけに使われていたらしいから」
「魔よけ、」
よいしょ、とFくんはカカシの足を持って肩にかけました。
「それならもらいます、カカシさまの恩恵にあずかりたいですしね」
「お前、清々しいほどに正直だな」
「はは、お褒めにあずかり光栄です」
人形師のあきれたような表情に背を向けて、Fくんは家路を急ぎました。
家にたどり着いたFくんは、すぐに庭へと向かいました。
あまり邪魔にならず、かつ目立たない場所を探してFくんはカカシを土に突き刺しました。
木で出来た一本足だけで体を支えきれないので、Fくんはカカシを家の壁に寄りかからせました。
「おいF、そんなトコで何してるんだよ」
「あ、お兄さん」
ベランダからFくんに声をかけたのは、Fくんのお兄さんでした。
お兄さんの右足は包帯で巻かれていて、松葉づえをついていました。
「人形師さんからカカシをもらったんです、だから庭にさしています」
「はあ?何で」
「魔よけだからです」
「………」
へえ、とお兄さんは頬をかきました。
「それ、効果あるの?」
「気休めです」
気休めかよ、とお兄さんはベランダからFくんに突っ込みを入れました。
「お守りとかおみくじとかお賽銭とかと一緒ですよ、信憑性はないのに信じたくなるんです」
「お前、現実的なんだか非現実的なんだかわからないヤツだな」
「褒め言葉です」
綺麗な笑顔を浮かべて、Fくんは言いました。
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