人形家族.
□:やじろべえ.
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これは、僕が高校1年生の時に2つ年上の姉であるクモリ姉ちゃんから聞いたお話です。
『:やじろべえ.』
クモリ姉ちゃんの知り合いに、Eくんという男の子がいました。
ある日、Eくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「やじろべえだー、小学生の工作で作った時以来なんですけどー」
「俺が小さい時は、確か釣り合い人形って呼ばれていたな」
「へえー」
Eくんは指先にやじろべえを乗せて、細長い横棒の両端についた重しをユラユラと揺らして遊んでいました。
横棒の真ん中にある小さな人形は愛らしく、人差し指の上で左右に振れていました。
「人形師さん本当にありがとうねー、俺大事にするよー」
「はは、ありがとな」
Eくんはやじろべえを大事そうに抱きしめて、家へと帰っていきました。
「ただいまー」
「あ、Eお帰りー」
玄関に現れたのは、Eくんのお姉さんでした。
お姉さんは、優しくEくんの頭を撫でました。
「E、今日も学校は楽しかったー?」
「うん、新しいお友だちも出来たんだよー」
「良かったじゃーん」
他愛もない話をして、Eくんとお姉さんは居間に向かいました。
「新しいお友だちってどんな人なのー?上級生?同級生?下級生?」
「全部違うよー、学校の近くに住んでいる人形師さんなのー」
「ああ、あのヘタレそうなお兄さんかー」
「ヘタレかー、確かに間違ってないねー」
あはは、と気の合う2人は笑い合いました。
「それでねー、人形師さんに試作品でやじろべえもらったんだー」
「どれどれー?」
Eくんはやじろべえを取り出すと、自慢気に指に乗せました。
「すごいねー、やじろべえって本当にどちらにもかたむかないんだねー」
「当たり前だよお姉ちゃーん、左右に片寄りがあったらやじろべえじゃないよー」
「そう、ねー」
ポリ、とお姉さんは頬をかきました。
「やじろべえは良いわよねー、どっちつかずでいいんだからさー」
「?」
「どちらかを決めなくてもいいしー、どちらも同じくらいの重さだしー」
本当にうらやましい。
その時浮かべたお姉さんの表情は、どこか切なさがにじんでいました。
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