人形家族.
□:ぜんまい人形.
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これは、僕が高校1年生の時に1つ年上の兄であるアメ兄ちゃんから聞いたお話です。
『:ぜんまい人形.』
アメ兄ちゃんの知り合いに、Bくんという男の子がいました。
ある日、Bくんは近所に住む人形師から試作品として不思議な人形をもらいました。
「なあ人形師さん、本当にお金とらないの?」
「ああ、それはあくまで試作品だからな」
へえ、とBくんは人形を指でつまみ上げました。
ぜんまいが背中にささった小さなぜんまい人形はサーカスのピエロで、化粧で白くなった顔に赤いメイクをしていました。
「気持ち悪いなコレ、本当に売れるのか?」
「好きな人は好きなんだよコレ、不気味だけど」
「日本にも変わった趣味のヤツもいるんだな」
ゴソッ、とBくんはせんまい人形を制服のポケットに入れました。
「じゃあ俺帰るから、人形師さん、後で請求されても俺小遣い全然ないからな」
「はは、わかってる」
気さくな笑顔の人形師に手を振って、Bくんは家路をたどりました。
「ただいまー」
「おかえり」
家に帰ると、ちょうどBくんのお兄さんが玄関で靴を脱いでいました。
「よぉ兄貴、受験勉強は順調か?」
「僕にそれを聞くか?」
「そうだな」
Bくんがお兄さんと並んでリビングに向かうと、不意にお兄さんは言いました。
「おいB、ポケットに入っているのってぜんまい人形か?」
「え?」
お兄さんが指差したポケットを見ると、先ほど人形師からもらったピエロが顔を出していました。
さっきは顔なんて出ていなかったのに、と考えながらBくんはぜんまい人形を取り出しました。
「ああ、人形師さんからもらったんだよ。まさか兄貴欲しいのか?」
「………」
コク、とお兄さんが無言でうなずくのを見てBくんは目を丸くしました。
日本にも変わった趣味のヤツがいると思ったが、まさかこんなに近くにいるとは思わなかった。
「わかった、じゃあ3千円で売ってやる」
「3千円か、ええと財布はどこだったか」
「おい兄貴!!」
カバンに手を突っ込んで財布を探すお兄さんの手を、Bくんは思わず止めました。
「馬鹿、冗談に決まってんじゃねえか」
「しかし」
「人形はタダでもらったんだ、だから俺もタダでやるよ」
「………」
Bくんはお兄さんの手にぜんまい人形を押しつけると、ニッと晴れやかに笑いました。
「なあB、」
「何だよ」
「お前を初めて、男前だと感心した」
「素直に礼を言えよ」
Bくんは、大事そうにぜんまい人形を握りしめるお兄さんを見ながら、心の中で人形師にお礼を言いました。
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