不幸携帯.
□:メール.
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これは、私が高校2年生の時に幼なじみのクキさんから聞いた話です。
『:メール.』
クキさんの知り合いの知り合いに、Aさんという女の子がいました。
ある日の放課後、Aさんが教室で携帯電話を打っていると1通のメールが届きました。
「あれ、誰だろう」
ピッ、とAさんは受信ボックスにある新着メールを開きました。
送信者は、Aさんがよく知っている名前でした。
「あ、aだ」
aさんは、Aさんと同じ高校に通っている幼なじみの女の子です。
クラスが離れてしまったせいで疎遠になってしまいましたが、今でもとても仲良しです。
「どうしたんだろう、誕生日でもないのに」
疑問に思いながらも、Aさんはピッピッとメールを開きました。
メールの内容に、Aさんは首をかしげました。
『左を見て』
「は?」
どうして左?とAさんはそのメールに従って左を向きました。
窓ごしに、正門が見える校庭と血のように赤い夕焼け空が見えました。
「え、」
その時、Aさんはaさんと目が合いました。
aさんは、さかさまになって上から下へと落ちていきました。
「え?え?」
「………」
ニヤ、と空中でaさんは口元をつり上げました。
携帯電話を強く握りしめたaさんは、そのまま下へと落ちて姿が見えなくなりました。
「え?何?どういうことなの?どうして?」
何が起こったのかわからなくて、Aさんは混乱していました。
頭の中を整理しようと、Aさんは必死で脳を動かそうとした時でした。
「ひっ!!」
ピッピッ、と単調な電子音が鳴りました。
携帯画面の右上にメールのマークが現れて、メールの受信を告げました。
「………」
まさか、と言い様のない不安を胸にAさんはメールを開きました。
案の定、送信者の名前はaさんでした。
『下を見て』
「つっ!!」
バッ、とAさんは思わず椅子を引いて机の下を見ました。
そこには、消しゴムのカスが落ちた見慣れた床がありました。
「………」
『下を見て』
aさんの言う下が何のことか、Aさんはわかっていました。
わかっていましたが、見たくありませんでした。
「a、a」
ピッピッ、と再び電子音が鳴って画面にメールのマークが現れました。
「いや、a」
何かに操られるように、Aさんはカタカタと小刻みに震えた指先でメールを開きました。
『違うよA、下はそっちじゃない』
「つっ!!」
どうしてaは、自分が下を見ていないことがわかったのだろう?
そもそも、どうしてaは飛び降りたのだろう?
答えの得られない疑問はAさんの頭に浮かんでは消えて、更にAさんの頭を混乱をさせました。
「a、a」
ぎゅ、と携帯電話を握りしめてAさんは席を立ちました。
カチャリ、と銀色の鍵を開けてAさんはベランダに足を踏み入れました。
「a、」
見るな、とAさんの本能が警告しているにも関わらずAさんの手は手すりを握りました。
そしてついに、Aさんは身を乗り出して下を見てしまいました。
「a、」
「………」
ツゥ、とAさんの瞳から涙がこぼれました。
下には、あお向けになってaさんが目を見開いて倒れていました。
aさんの首や手足は有り得ない方向にグニャリと曲がっていて、まるで人形のようでした。
「a、いやだよ」
ペタン、とAさんは手すりを握りしめたままその場に座りこんでしまいました。
冷たい風が、Aさんの頬を撫でるように通り過ぎていきました。
「a、a」
ポタポタ、ポタポタととめどなくAさんの瞳から涙が流れました。
幼なじみで仲が良かったaさんの自殺に、Aさんは悲しみを抑えきれませんでした。
「a、a」
どうして、嫌だとAさんが泣きじゃくっていたその時でした。
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