人形家族.
□:骨格標本.
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次の日の朝、部屋には目をうつろにしたXくんと右腕を失った妹さんがいました。
Xくんは、小さな呼吸を繰り返す妹さんをただ抱きしめていました。
「Xさんはその時から、妹さんを生涯守り抜くことを誓ったそうです。恨まれることを覚悟して」
「でも妹さんはXくんを恨むことなく最後にはXくんの子供も産んだ、でしょう?」
「え?」
きょとん、とキリちゃんは目を丸くした。
「ハレ兄さま、ご存知だったのですか?」
「お父さんとお母さんから聞いたよ、親の馴れ初め話くらい知っておけって言われてね」
「え、」
「え?」
ポカンとしたキリちゃんの顔を見て、僕はすぐに後悔した。
キリちゃんはまだ中学生だから、聞いていなかったのかもしれない。
「ハレ兄さま」
「………」
「私たちのお父さまとお母さまは、血の繋がった兄妹なのですか?」
「………」
ごまかしはきかない、と僕は黙ってうなずいた。
驚いて動かないキリちゃんに、僕は説明をした。
「お父さんとお母さんだけじゃない、おじいさんとおばあさんも血が繋がっているよ。アマギ家は血が繋がっていないと人を愛せないから」
「そんな、」
戸惑うキリちゃんに、僕は話を続けた。
「あと、アマギ家は僕以外みんな綺麗な顔をしていつまでも老いることはないでしょう?それもアマギの血がそうさせているんだって」
「………」
「同じ場所から産まれ、永遠の美貌と若さを保つアマギの人間はそれゆえに人形と呼ばれるんだ」
そう、だから僕はこの平凡な顔が嫌いだった。
親戚たちに何度もアマギの血は受け継いでいないと言われ、何度も鑑定を受けて、最後は整形までされそうになった。
アマギ家が繰り広げる人形劇場に、どうして僕がいるのだろうか?
「ハレ兄さまも、」
「?」
「ハレ兄さまも、私たち兄弟の中の誰かを思っているのですか?」
不安に揺れる瞳が、僕を見上げた。
「ハレ兄さまの言うことが正しいのであれば、ハレ兄さまも私たちの中の誰かを好きになっているはずです。でもハレ兄さまは誰も受け入れていません」
「うん」
「クモリ姉さまもアメ兄さまもユキ兄さまも私もみんなハレ兄さまが大好きです、でもハレ兄さまは別の人を」
「キリちゃん」
僕は思わず、キリちゃんの言葉を止めた。
キリちゃんの言葉が正しければ、僕は。
「アマギ家にも確かにアマギではない人を愛した人もいたけれど、最後はみんな実の兄弟と結ばれたんだ。だから僕もいずれ君たちの中の誰かを好きになるようになる」
「それなら」
でも、と僕はそこで言葉を切った。
「僕はみんなと違って平凡な顔で産まれてきた、だからそれが当てはまらない可能性がある」
「!!」
キリちゃんは、絶望的な顔をして僕の肩をガッシリと掴んだ。
キリちゃんが僕を好きな理由は、血がそうさせているからなのだろうか?
「ハレ兄さま、まさか」
「君たちが血が繋がっている理由で僕を好きになっているのだとしたら、僕は逆かもしれない」
血が繋がっているから、家族を好きになれない。
ズルリ、とキリちゃんの手が肩からずり落ちた。
その手を、僕は静かに引きとめた。
「あくまで仮説だよ、僕もまだわからない」
「ハレ兄さま、」
「僕はお父さんもお母さんも好きだし、クモリ姉ちゃんもアメ兄ちゃんもキリちゃんも好きだよ。ユキくんは苦手だけど」
キリちゃんは、大きな瞳を潤ませながら言った。
「信じて、信じていいのですねハレ兄さま」
「うん」
優しく、僕はキリちゃんを抱きしめた……。
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