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もしもに夢見る水曜日
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03:もしもに夢見る水曜日


朝、政宗と一緒に歩いていると、不意に彼がこう言った。
―Christmasは誰と過ごすんだ?
元親からは特に何も言われてないし、多分一人で過ごすことになるだろう。
余り重苦しい空気にならないよう、明るくそう返すと、『じゃあ俺と過ごさねぇか』と誘われた。
きっと元親とは過ごせない、そう思い、何の迷いもなく頷いた。
一人で過ごすより、誰かと居た方が気が紛れる…政宗には悪いけど、自分はその程度にしか思ってなかった。
夜になると鮮やかさを取り戻して綺麗だが、昼間のイルミネーションはかなり虚しい。
電球やコードが丸見えで、木々や建物を彩るどころか、かえって汚くしている。
自分と同じ。
夜になって元親に抱かれている時は輝いているが、朝を迎え彼を失った途端、明かりは消え、無様な姿を曝す。


―12月24日、政宗とは午後6時に自分の家の近くで待ち合わせしている。
時計と睨めっこしながら何を着て行こうか悩んでいると、テーブルの上に置き去りの携帯電話が鳴った。
彼からだろうと思い、ディスプレイを見た自分は頭が真っ白になった。
『長曾我部』
目に飛び込んできた4文字を、何度も頭の中で復唱する。
次に、彼以外に長曾我部という人物が居なかったか思い出してみるが、やはり彼しか居ない。
恐る恐る電話に出ると、『随分遅いじゃねぇか』と少し機嫌の悪そうな声で言われてしまう。

「すまぬ…風呂に浸かっていた」
「…そっか、なら、しょうがねぇな」

暫しの沈黙の後、元親はぎりぎり聞き取れるくらい小さな声でこう言った。
―…じゃ、クリスマスくらいはずっと傍に居てやるよ。
だが、貴様には同棲して居る恋人が…。
電話越し、元親が笑う。

「恋愛に疎いアンタには判らないだろうが、ずっと一緒に居るとそれが当たり前になるから、特別な日こそ、違う奴に逢いたくなるもんなんだよ」
「そういうもの、か…」
「そう。だから、何か作って待ってろ。7時にそっち行くから」

約束がある、とは言えなかった。
言ったら彼が他に行ってしまいそうで怖くて、政宗との約束をなかったことにした。
自分は本当に最低な人間だ。
政宗に連絡するのも忘れ、財布を持つと急いで近所のスーパーに買い出しに向かう。
自分が作れる料理と彼が好きな料理を考え、クリスマスらしくないがすき焼きにしてみた。
途中、元親から『ケーキは俺が買って行く』という内容のメールが届き、ますます胸が弾んだ。
もしかしたら、元親は自分の方が好きなんじゃないか、もしかしたら自分を選んでくれるんじゃないか、そんな淡い夢を見ながら部屋に戻ると、早速、料理の準備を始めた。



04:全てが恋しい木曜日

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