交差
□大神さまとお狐さま 弐
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もぐもぐと、店先の長椅子に腰掛け団子を頬張る。
道中休憩がてら立ち寄った茶屋だったが、存外に茶も団子も美味かった。
熱い茶をすすると、一心地ついたようにほぅ、と息がもれる。
そこでふと、薬売りは足元をみる。
足元といっても、ちょんと座っているのは体躯の大きな白い犬――もとい、狼なので視線をやや下げるだけだったが。
そう、狼。
先日たまたま通りかかった山道で出会ったのだが、どうにも懐かれてしまったようでそれ以来ずっと共に旅をしている。
しかもただの狼ではないのだから、薬売りは顔にはあまり出さないが、当初ひどく困惑した。
ただの狼ならば、追い払うなり何なりすればいいのだが、そうもいかない。
狼は、大神だから。
この地上を遍く照らし、慈しむ、神。
……やや好戦的ではあるが。
兎も角、薬売りが視線を向けると、尾を振りながらじぃっと手に持っている団子を見ていた。
「…食べたいん、ですかい?」
声をかければ肯定するように「わんっ!」とほえる。
串ごと差し出せば、器用に団子だけを抜き取り嬉しそうに食べはじめた。
「あら、変わった犬ねぇ。団子を食べるなんて」
明るい声と共に、店の娘が声をかけてくる。
飛びぬけて美しいわけではないが、愛嬌のあるこの店の看板娘のようだった。
「団子が好きならこれあげるよ。あまりものだけどね、今日はもうこれでおしまいだから」
そう言って、数本の団子を薬売りに渡し、残りを串からはずし皿を白狼の前におく。
「これは…これは。ありがとう、ございます」
「いいんですよ、どうせ今日はもう店じまいだし。それに、こーんな綺麗なお兄さんも見れましたから」
「…では、ありがたくいただくと、しますかね」
からからと笑う娘に、礼を言う薬売りに続くように「わんっ」と白狼はほえると、目の前の団子を見る間に平らげてしまった。
「ふふ、よく食べるわねー」
「ええ…そうです、ね。では、わたしはこれで…」
白狼を撫でる娘に声をかけ立ち上がると、「またきてくださいね!」と元気な声が返ってきた。
いずれまた、と足を進めようとした薬売りだったが、何か思いついたかのように振り返り、薬箪笥から包みを取り出し娘に渡す。
「え、何…?」
「団子の、礼…ですよ」
「そんな…いいんですか?」
「ええ。煮出した汁を風呂に入れて浸かれば…疲れがとれますんで、良ければ」
「でも、団子なんてあまりものですから…」
断ろうとする娘に、半ば押し付けるように渡すと薬売りはそのままきびすを返す。
先には早く来いと吼える大神さま。
独り言のように「はい…はい。」と返事をすると高下駄を鳴らし歩き出す。
日も傾いてきた。
早く、次の町へ。
宿が閉まってしまう前に。