激情に燃える紅玉(庭球CP有り)

□俺の愛した兎
2ページ/5ページ

携帯で時刻を確認すると、もう昼だった。
「オサムちゃん、朝からって事は、まさか何も食うとらへんの?」
俺の言葉に、オサムちゃんは頭をこくんと下げる。
「ほなアカンわ。ちょお冷蔵庫借りるで。」
断ってからキッチンへ向かう。
レタスがあったので、一口大にちぎってオサムちゃんの口に運んだ。もしゃもしゃと一心不乱に食べ進める可愛い恋人。
時折椅子にかけてあるコートから煙草を引っ張り出そうとするので、止めるのに苦労した。
「兎の時ぐらい我慢せえ!」
煙草の害について学校で習った時に観せられた動物実験のビデオを思い出して、俺は背筋が凍った。



食事が済むと、出かける支度をした。オサムちゃんには、俺のもの(!)だと分かるように首にチョーカーをつけてあげた。俺がしていたやつだ。

『どこ行くん?』

「空が青いし、お散歩。」
オサムちゃんには俺の声が聞こえてるようなので、口頭で返した。


オサムちゃんを上着に包んで抱き、準備は完了。
向かったのは、近くの河川敷だった。
堤の芝に腰を下ろして、オサムちゃんをそばに置く。
「ええ天気やな…。」

目を上げると、アクアマリンのような淡い空にムースのような雲がぽこぽこ浮かんでいた。陽射しも温かくて心地よい。
(これでオサムちゃんが人間やったら…)
最高の誕生日になったのに…と思ったが、すぐにその考えを打ち消した。自分の身勝手さに辟易する。
かたやオサムちゃんは、たんぽぽを囓ったりちょうちょを追ったりと楽しそうに遊んでいた。
「あんまり遠く行ったらあかんでぇ…」
そう言ったのを最後に、不覚にもうとうととまどろんでしまった…。



気がついたのは、男達の不快な声でだった。
流行の服をだらしなく着崩した、自堕落さが見てとれる程の男二人だった。その先にはなんと…
「あ、うさぎ。コイツ食うか?」
「はあ?お前何ちゅー神経しとんねん。可哀想やろ。」
「せやかて、うさぎでも食わんと俺ら餓死確定やで?」
「まあ待てや。コイツなかなか綺麗な目しとるやろ。エメラルドみたいやで。」
「ああ。新種かな…」
「コイツ売って金にすればええんや。そしたら好きなモン食えるやろ?」
「おお。お前天才やな!」

何やて…そないな事させるか!!!
男の汚れた手がオサムちゃんに触れる。
その時、鋭い鳴き声を上げた。兎が鳴くのは、子供を守る時と身の危険が迫った時のみだと、前に授業でやった気がした。
周りには勿論、警戒して鳴いたとしか思えない。しかし、俺にははっきりと聞こえた。

(白石…助けて…!)

次の瞬間、銃弾の速さで走り出していた。



「オサム!!!」
男を突き飛ばして、オサムちゃんをひったくる。
「もうオサム、こんな所におったんか。探したで!」
呆然とする男達を睨みつけて、この上なくドスの効いた声で話した。
「俺のペットをどうしたいって?」
「「い、いや…」」
「空腹でしたら、俺が手塩にかけて育てた毒人参、口に突っ込んだりましょうか?」
「「ひっ……っぐ…」」

あーあ。卒倒したまま泣いとるわ。せやけど、俺の大切なモンに手出したんやから、当然の報いやろ。


俺は二人の愚者を放置すると、オサムちゃんをしっかり抱いて踵を返した。
せっかくの誕生日、二人っきりで過ごしたくてまっすぐ帰路についた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ