水晶の群生地(庭球CP無し)

□君に出会えた奇跡
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一方こちらは、今回の主役たる謙也君。

「四月から高校や言うても、実感沸かんな〜。変な感じ。」
卒業証書をテーブルの隅に追いやって、ベッドに寝転びました。
実家を継ぐため、四天宝寺校区を少し離れた進学校に通うのです。ある意味幼馴染みとも言える彼らと離れる事になるなど、謙也には去年の今頃は思いも寄りませんでした。
「虚ろやな…」
自嘲気味に呟くと、目を閉じて彼らの顔を思い浮かべました。
蔵…ユウジ…小春…千歳…銀…健二郎…
(いい奴らやったな…)
(おおきに。お前らと出会えて嬉しかった…)
(置き去りにする俺を許せ…)

想いが交錯する中、謙也は思考に疲れていつの間にか眠っておりました。

「光…」

なぜか眠りに落ちる直前に、一言だけそう呟いていました。


声が聞こえます。
――さん…

―やさん…

少しずつ大きくなり、響きも明瞭になりました。

「謙也さん!!」
「うっわ!!誰や!」
慌てて起きると、目の前の人物に謙也は固まりました。
「光…なんでお前が…?」
卒業を境にもう会う事もないと思っていた、謙也の想い人です。
「オサムちゃんが、大事な用があるから部室に来い言うてました。」
謙也は一瞬訝りました。打ち上げなら式後にやったはずです。
「なんなんや。いきなり」
「ええから来いや。」
「ひっ……分かったわ。待っとき」
光の滅多に出さない低音に気圧されて、ついに謙也が折れました。

光がふいに申し出ました。
「謙也さん、トイレ借りてええですか?」
「ああ、ええで。」
光はトイレに移動すると、携帯を出して声を潜めました。
「もしもし部長?誘導に成功しました。今からそっち向かいます。」
『ああ、ようやった。こっちも準備万端や。買い出し班も帰って来た。』


さあ、お楽しみはこれからです。
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