黄水晶の書棚(その他二次創作・一次創作)

□不思議系お姉さんとギャルの幽霊と侍の話
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「久しぶりのパンケーキうまかったー!また行こうね♡」
「給料入ったらね」
助手席に座る女子高生・紗幸(さゆき)は、実は生きた人間ではない。
元々は近所のバス停に囚われていた地縛霊だったが、とある縁で私・西原真柚(まゆ)がご飯を食べさせた事がきっかけで、我が家に居着いてしまった。
祖母と両親から貰い受けた古民家に一人で住んでいた私にとって、今や紗幸の存在は大切な日々の張り合いになっている。
以前、紗幸がこんな話をしてくれた。
『お仏壇にご飯お供えするやん。あれね、ご先祖様に食べて霊力付けて子孫を守ってくださいってやってんの』
『やっぱり、魂だけになってもお腹すくのか』
『めっちゃすくよ!むしろ肉体というクッションが無い分ダイレクトに来てエグい。もう死んでるのに「死ぬ!」ってなる』
『そんなに!!?』
『でね、そういう食事の供養をされてない幽霊がお腹すいてイライラして、人間に取り憑いて凶悪犯罪とか起こすんだって』
『おぉう…』
『でも、紗幸はラッキーだったよ。にっしーに気付いて貰えたから。しかもご飯食べさせてくれてお家にも住まわせてくれて、にっしーマジ神!あざっす!』
『はいはい。おだてても珈琲しか出ないわよ』
壮絶過ぎる世の理を、ギャル気質でさらりと教えてくれたのだった……

自宅の庭に車を入れ、エンジンを切る。
「紗幸、後ろから荷物下ろしてくれる?」
「はい喜んでー」
居酒屋の店員みたいな返事と共に、ギャルの幽霊が買い物袋を両手に二つずつ運んでいく。
「あんた、また力付いたね」
「にっしーがいつも、美味しい物食わせてくれるからじゃね?」
紗幸は最初に出会った頃より、姿形もはっきりして生者と変わらない状態になっていた。
「今日の夕飯は油淋鶏だから、あんたも手伝ってね」
「やった肉!うち鬼のように葱切るね!」
そんな会話をしていた時だった……


「にっしー!来て!!!」
先に玄関前にいた紗幸が、叫び声を上げて私を呼んだ。
「もー、何。百足でもいた?」
我が家は岐阜県のわりと山間部にある為、百足や小動物などが庭先に出てきても、別に珍しくもない。
「虫じゃない!ってかそんなちっこいもんじゃない。侍!!!」
「はぁ?何言ってんのよこの娘っ子は…」
「だから、家の前に侍が倒れてんの!!!嘘じゃないってば!」
声色から、紗幸が嘘をついているようには感じられない。
とりあえず見に行ってみると……


「本当にいる………侍が」
月代に結った頭。
土埃が付いてはいるが一目で美丈夫と分かる、涼やかな顔立ち。
桜をあしらった家紋付きの萌黄色の小袖に、茶色の袴。
腰に打刀と脇差、大小二振りの刀を差した長身の武士が、目の前に倒れていた。
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