激情に燃える紅玉(庭球CP有り)

□そのおいしさを恋とこそ知れ
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部活後、もう疲れて歩きたくなかったので、顧問のオサムちゃんを宥めてすかして脅して車に乗せてもらった。
帰る途中でオサムちゃんがコンビニに寄ったので、俺も一緒に降りた。
「来てもええけど、無駄使いするなや?」
「心外やなぁ。先生が変なもん買わへんか監視したろ思たのに。」
「阿呆、お前と違うわ。」
こつん、と俺の額に指をあてる。かわいい。

店内に入ると、流行の曲と店員の機械的な笑顔に出迎えられた。
オサムちゃんは奥の生物コーナーへと急いだ。インスタントには目もくれず。
「今のコンビニはすごいな、野菜もある…」
「ホウレン草が安いな。いっぱい買っとこ」
などと独りごちながら、そのしおれかけの菜っ葉をカゴに放り込んでいく。あんたどこの主婦ですか。
俺はお菓子の棚に隠れて、オサムちゃんをこっそり観察する。俺の知らない日常の顔。

10分位して、オサムちゃんが戻ってきた。
「もうええ?」
「んーと…あ、つまみ買うの忘れた。」
(オサムちゃんのつまみ…ちょお興味あるかも…)
今度は俺もついてく事にした。
オサムちゃんが向かった先は…

【秋のスイーツ祭り】
は…?
酒類コーナーやなくて?
俺の困惑など露知らず、オサムちゃんは喜々としてスイーツを手に取っていく。
(酒飲みの人って、辛党が多いんやなかったっけ…?)
俺は呆然として見惚れていた。
あまりに嬉しそうで、輝いてて、

「可愛い…」



「どえらい買ったなー」
「へへっ」
…そんな悪戯っぽく微笑まんといてくれ。襲いたくなる…
ティラミス、ロールケーキ、モンブラン、チーズタルト、シュークリーム、苺ショート、バナナオムレツ、プリン…と、いろんな生菓子がカゴの約半分を占領していた。

会計を済ませて、車に戻った。
「先生、そんなんばっか食っとって血糖値大丈夫なん?」
「あー。俺こう見えても低血糖気味やさかい、高めの方がちょうどええねん。」
掠れたアルト声とアクセルを踏込む音が、ちょうど重なる。
「そないな事言うて油断しとったら、俺が先生のことデコレーションして食ってまうで?」
「…気ぃつけます。」

発進させると、オサムちゃんの表情が引き締まる。
(反則やわ…)
さんざん可愛い姿を見せつけといて、いきなりクールになるなんて。
俺は彼の横顔を眺めながら、今まで不健康だからと敬遠していたコンビニに、ちょっと感謝していた。


《END》
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