激情に燃える紅玉(庭球CP有り)

□白牡丹
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誕生日が、あまり好きではない子供だった。

3月という物入りな時期に生まれたせいか親の対応は慌ただしいものだったし、受験だのテスト期間だのと重なって友達からもおざなりにされた。
しっかり向き合って祝われた記憶というのがほとんどない。だから、俺は誕生日があまり好きではない子供だった。


俺は今、化学教官室で孤軍奮闘の身にある。
目の前にあるのは採点済のテストの束。さらにまだ、傍らにある山のような数を攻略しなければならない。
担当教科とはいえ、部活にも行かずになんて無責任な顧問だと我ながら思う。
「コーヒーでも淹れるか…」
酷使した頭を少し休ませたくて、立ち上がる。


「オサムちゃん。」
ドアが急に開いて、白石が入ってきた。
「やっぱりここにおった。」
「おぉ、白石。」
俺が迎えるより速く、白石が背後に回り込んで俺を抱きすくめた。
「んー絶頂。」
「何しとんお前…」
「充電ー」
白石は愛おしむように髪を指で梳き、鼻先をうなじに押し当てた。
「タバコ臭いから止め。」
「そんな事あらへん。ちゃーんとシャンプーの匂いする。」
包帯が巻かれた彼の手に自分のそれを重ねると、前よりも少し骨張っていた。
(あ、そうか。もう10日もないんや…)
愛しい生徒の成長。しかしそれは彼らとの別れをも意味していた。

白石だけやない。
謙也、千歳、銀、ユウジ、小春、健二郎。それに教えてきた皆に幸せになって欲しい。
自分の卒業式すらどうでも良かったのに、教え子の事となると涙腺が切れそうになる。
嬉しいはずなのに、泣き叫びたい。


「会いたかったー。オサムちゃん超愛しとる。もう勉強しとうないわ〜」
「ぷっ……アホか。」
沈みかけた心は、幾度となく聞いた大好きな声にあっさりすくい上げられた。
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