激情に燃える紅玉(庭球CP有り)

□牡丹の蕾は堅い
1ページ/2ページ

頑固な想い人に説得を重ね、何とか自室に招き入れた(客室だと落ち着かないからだ。)、までは良かった。
彼…渡邊先生は警戒しているのか、床に座り込んだまま動こうとしない。

抑えた声で、ようやく口を開いてくれた。
「とりあえず…靴でも舐めたらええんですか?」
……………!?
何て事を言う人だ。これは予想外。
「貴方は何か誤解しておられるようだ。
私は先生を客人として呼んだのです。どうか床などに座らず、こちらのソファに来なさい。」
「………。」
彼は納得してくれたのか、ゆっくり立ち上がってソファに向かった。
差し向かいに座ったところで、メイドが茶器を運んできた。
茶会の支度をするメイドの手を興味深げに見守る彼が、とてつもなく愛しい。

「ありがとう。お前は休んでなさい。」
「かしこまりました。」
メイドを下がらせた後で、なかなかカップを持とうとしない彼に促した。
「彼女は私の腹心です。毒など入ってませんよ。」
「はあ…そういう事なら…」
彼も安心したのか、ようやく口をつけてくれた。
「……中国茶ですか?」
……分かってくれましたね。さすが私の見込んだ人だ。
「全国大会の時、貴方の帽子に牡丹模様があったのを思い出しまして。」
「それで、わざわざ……?」
「はい」
貴方だけですよ。私にここまでさせた人は。
「おいし…」
湯気のせいで、彼の石膏のようだった頬が紅潮しだした。それが何ともいえず扇情的で…
な…何を考えてるんだ私はっ!!


茶会が済むと、彼は退屈し始めたのか部屋の調度品を見ていた。
そんな物で貴方が手に入るのならば、幾らでもくれてやるでしょう。
しかし、そんな事ではなびかない一本気なところに惹かれたのも、また事実。
ああ、どうしたら…


「………!」
そうだ。
渡邊先生がソファに戻ってきたところでスカーフを解くと、自分の視界を覆った。
「あ……あの?」
驚いている彼。よし、計算どおりだ。
片手でテレビのリモコンを持ち、操作する。
そしてすかさずこう言った。
「あれ、テレビが映らない。」
「…………。」


反応はない。
(やはり、こんなものでは駄目だったか…。)
酷く疲れた気がしてスカーフを外すと、渡邊先生の顔が目に飛び込んできた。目元は微かにほころんでいる。
「榊先生って、吉本みたいな事もできるんですね。」
必死に口を抑えて笑いを堪える彼が、たまらなく可愛らしい。


ああ、やはり貴方は、
笑顔が、よく似合う。

《END》
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ