激情に燃える紅玉(庭球CP有り)

□氷の化石
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二人きりの時ぐらい、ちゃんと俺を見て?


オサムちゃんの家で夕食を済ませ、俺が洗い物をしている時だった。
リビングにいるオサムちゃんは、さっきからずっと俺の方に背を向けている。
呼びかけても返事がない。
「俺、何かしたやろか…」

本気で心配になってきた頃、突然オサムちゃんが声をあげた。
「よっしゃ!綺麗になった!」
本当に、さっきからなんなんだ…。

オサムちゃんが喜々とした表情で、俺に近付いてきた。
「白石、これ前に旅先で買ったんやけど、綺麗やろ!?」
そう言ってオサムちゃんが差し出したのは、掌サイズの水晶。
根元には結晶原石(クラスター)から切り出した跡がついていて、それが天然モノであることを物語っている。
屈折のせいか、結晶の表面でオーロラのような光が見え、すぐ消えた。

「オサムちゃん、ずっとそれ磨いてたん…?」
「せやで?」
「俺、ずっと呼んどったんやけど…」
「あ、せやったん?ごめんな。」
オサムちゃんは謝ってくれた。しかし、このどうにもできない苛立ちはどうしよう。
「そんなもんより……」
自分でも驚く程冷めた声だった。
緩慢な動作でオサムちゃんの手から水晶を取り上げ、シンクの洗い桶に放り込む。
もの言わぬ透明な石は、水に紛れてたちまち分からなくなった。

「何すんねん……!」
怒って、というより驚いてオサムちゃんが大声を出した。
「オサムちゃんに色目使う石なんか嫌いや…。」
「白石……」
キッチンの床に、無言でオサムちゃんを押し倒す。
寝室へ行くのがじれったくなって、その場で力任せに抱いた。
きっと、終わった後で俺はオサムちゃんに叱られるだろう。もしかしたら口をきいて貰えないかもしれない。

でも、今はそれでもよかった。


《END》
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