水晶の群生地(庭球CP無し)

□春に咲いたひまわり
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最初見た時は、「何だアイツ」とだけ思った。
声はでかいし、よく飛び跳ねるし、人の名前普通に間違えてるし(しかも連呼するんだから始末に負えない)、ド派手な豹柄のシャツなんか恥ずかしげもなく着て…

でも、そんな奴だけど俺との対戦をあんなに喜んでくれたのもアイツ――遠山が初めてだった。(部長や不二先輩はこの際除く。あの辺りはもう世界が違うから)

明るくて、無茶苦茶で、限り無く自由なアイツ。俺を籠の猫とするなら、アイツは野生の豹だと思う。放し飼いなんて陳腐なもんじゃない。そもそも「飼われる」という概念すら、アイツには似合わない。

単純で、素直で、愚直。アイツは俺が手にできない物を全て持っていた。
だから、一球勝負の時はそっけなく扱ってしまったけど、本当はすごく羨しかった。
お互いを試すことも、探り合うこともせず、ストレートに感情をぶつけられるお前が……



「コシマエ〜何ボサッとしてんねん!」
物思いに耽ってたらいきなり肩を叩かれた。
「うわ、あぶないだろ!それに俺はコシマエじゃ…はぁ、もういいよ…。」
こんなコント紛いのやりとりも、もう慣れた。
どうして俺が大阪に来ているのかと言うと、俺が日本で過ごす最後の日とコイツの誕生日が偶然重なり、コイツが「是非とも来い」と駄々を捏ねたからだ。
俺も、特に用事がなかったので赴いた。

「なぁコシマエ、アメリカにもタコ焼きあるんかな?」
「どうだろ…和食の店は結構あるけど。」
たわいない会話、何でもない町並み。明日からは海を越えて異国(といっても俺にとっては向こうが故郷だけど)で暮らすと思うと、不思議と綺麗に見えた。

「コシマエ!ちょお待っとけ!」
「おい遠山!?」
言うや否や、遠山が駆け込んだのはタコ焼き屋さん。
「なんだよ…自分だけ食いに行ったのか…?」
ぶつぶつ言いながら待つ。10分もしない内に、例のゴンタクレが戻ってきた。
「コシマエ〜!これお前にやるわ!」
笑顔で差し出したのは、5箱はあろうかというタコ焼き。
「バカお前…何でお前の誕生日なのに他人にあげんだよ…てかどんだけ買ってんだよ。」
唖然とする俺を見て、遠山は笑顔で答える。
「ココのうまいんやで。アメリカ行って恋しくなったらココの味思い出しや!」
…なるほどね。だからこんなに。
「俺は一箱でいいよ。お前の誕生日なんだからお前食えば?」
「え、ええんか?」
「うん。」
二人でベンチに腰掛けて、タコ焼きを食べた。
「ホントだ。うまい…」
「せやろ!あんじょう食っとき!」
「よく入ってくな、お前は…。」
遠山はもう、3箱目に手を出していた。
まるで、どっかの先輩みたい…


「あ、そうだ。プレゼント…」
ふと思い出して、慌てて鞄を漁った。
取り出したのは、小さな紙袋。
「ほら。HAPPY BIRTHDAY。」
「なんや?」
小綺麗なラッピングは、ゴンタクレの手で引き裂かれた。(てめえ…!)
「かっこええな!おおきに!」
中に入ってたのは、スタイリッシュなリストバンド。
「だ…大事に使えよ!」
ひまわり畑のように明るい笑顔を向けられ、見ているのが恥ずかしくなって思わずそっぽを向いた。
「ほら、行くぞ。」
「???」
「誕生日くらい、好きなとこ付き合ってやるよ。どこ行きたい?」
「んとなー…あっち!」
言うなり、遠山は俺の手を引いて走り出した。
「だから、危ないって!!」


別れなど悲しくない。
俺達の前には、無限の未来が広がっている。
永遠に、走っていけそうな気がした…。


《END》


HAPPY BIRTHDAY金ちゃん!生まれてくれてありがとう!
たまにカプなしを書くと楽しいです。
リョーマとは普通の友達感覚でいてほしいです…。
 

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