水晶の群生地(庭球CP無し)

□忍足謙也の壮絶な一日
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両親も弟も不在で、一人静かにのんびりと連休を楽しむ…はずだった。
今リビングに居るのは俺と、イグアナの花子。そして、生意気な後輩…


数時間前のことだ。
開業医を営む両親は、貴重な休みを利用して夫婦水入らずの旅行に出た。母の声が明るいキッチンに響く。
「ほな謙ちゃん、お留守番お願いね。」
「心也は?」
「お友達とお泊まりやって。」
「ふーん。」
俺はパンを咥えながら何気なく返事をした。
また母の声。
「ほらお小遣い。謙ちゃんには面倒ばっかりかけたから…」
そこには、三人が帰ってくるまでの食費・生活費があった。
「友達でも呼んで、久しぶりにはしゃぎなさい。」
「マジで!おおきに、大事に使うわ。」
俺は、もうこの時点で相当はしゃいでいた。
しかし、この時用意されていたはずの至福の時は、この後あっけなく立ち消えになる事となる…。

家で一人になると、洗い物を片付けて簡単に掃除をし、洗濯機を回してテレビをつけた。
大好きな映画のDVDをセットして珈琲を淹れれば、もう自分だけの世界だ。



映画を堪能してテレビを切ると、もう昼時だった。
「ピザでも取るか…」
そう呟いて立ち上がった時。



『ピンポーン…』
(なんでこんな時に…?空気読めや…)
俺の毒づきも虚しく、相手が連打すればする程家主の苛立ちも増すのがそのチャイムなわけで…
急な客だといけないと思い、急いでチェーンを外した。

「謙也さあぁぁぁぁぁん!!!」
「ぐっは!!!」
開けるや否やでかい塊に飛び付かれ、情けない声を上げてふらついた。
「ひ、光?!」
「謙也さん、こんにちは。」
「もう、やかましいやっちゃな。家族が居ったらどうする!」
「ご心配なく。親御さんが出てくところは見届けましたから。」
変な自信に満ちた光の言葉を聞いて、俺は口に白玉団子(大)を詰め込まれたような気分がした。
「ストーカーか。はぁ、もうええわ。寒いから入れ」
「謙也さん、俺の事…」
「俺が寒いんじゃ!」
「俺が」を一文字ずつ区切って、怒鳴りつけるように返した。


そして、今に至る。
あの後俺は光をリビングに通すと、奴の分の珈琲も淹れ、注文したピザを二人で分け合って食べた。
可愛い後輩の為と思い、自分用に取っておいたプリンを出したら、甘党のそいつは10秒で食べた。(こいつ…!)

脳に養分が行き渡ったとこで、俺は光に来た理由を尋ねた。
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