水晶の群生地(庭球CP無し)

□スピ☆まほ
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童貞のまま誕生日を迎えたので、魔法使いになってもた。


3月17日の朝、従兄弟からのお祝いメールで起こされた時は7時をとっくに過ぎとった。
流星の速さで身支度を整え、部活道具が入った鞄とオカンが用意してくれた弁当を引っ掴み家を飛び出す。
「謙也ァ!あんた朝ご飯は!!?」
「スマン今日は無理!!!」
頼むで、浪速のメロスと謳われた俺の脚力!!!


「ハアハア…ここまで来といたら間に合うやろ…」
朝食を食い損ねたので、学校から程近いコンビニに入った………までは良かった。
そう、ホンマにここまでは普通の日常やったんや……
「らっしゃーせー」
「牛すじと、後は大根、卵…」
その時は、何かおでんの気分だった。熱々のおでんをハフハフ言いながら食いよる時間なんか無いはずなのに、何故か俺はおでんを頼んでたんや。
「328円になりやーす」
お金を払ってお釣りを受け取った時、店員の手が俺に触れた。


『すり身揚げ』


「………は???」
思わず変な声を出した俺を、店員が不審げに見る。
「今、何か言いませんでした?」
「はい?」
『何言ってんだこいつ』と言わんばかりに店員が眉を潜める。
「だって今、すり」
「おい金髪の兄ちゃん、いつまでかかっとんねん!」
後ろに並んどったおっさんにどやしつけられ、そそくさと店を出た。
「何やねん今の…あっつ!」
速歩きでおでんを食いながら学校へ急ぐ。
「謙也くぅん、おはようさん♡」
その道中でも小春に尻を触られれば『白滝』と聞こえ。
それを見たユウジにど突かれれば『うずら串』と聞こえ。
銀に「今日も精進しよな」と肩を叩かれれば『焼き豆腐』と聞こえた。
「ケンヤー!」
正門をくぐると、金太郎が背中にタックルしてきた。
「ぐえっ…!金ちゃん俺今ご飯食べとんねん。後でな…」
「ケンヤ、座って食べへんとお行儀悪いで」
金太郎からは何も聞こえなかった。こいつはホンマにたこ焼き以外の食い物には興味がないらしい。
まさかこれ………触れた人間の好きなおでんネタが分かるっちゅー奴か……!!???

前に侑士と白石が『めっちゃ泣ける!尊い世界や!』と薦めてきたドラマに、あまりにも設定が似ている。
童貞のまま成人し触れた人の心が読める魔法使いになった主人公が、社内一のイケメン同僚からの好意を知り、何やかんやあって結ばれる純愛BLもの。
しかし、それはあくまで創作のお話。現実はそんな優しいもんやない。

「こんな地味な魔法いらんっちゅーねーーーーん!!!!」

俺の魂の叫びが、校内にある寺の鐘の音とハモって響き渡った………
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