魔法石の保管庫(チェリまほ)

□白と黒、嫉妬と苦労
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何処にでもある商店街の、何処にでもあるアンティークショップ。
今日もごくありふれた、平穏な日常が流れていく。
「やぁ清くん。何か新しいの入った?」
「あっ、豆腐屋の松さん。こんにちは」
よく焼物を買っていく常連さんが、火鉢は無いかと店を訪ねてきた。
「また寄せ植えに使うの?」
「如何にも。今度は陸上植物だけじゃなく、睡蓮鉢でメダカでも飼ってみようと思ってね」
店内を自由に見てもらい、お気に召した物があればそれを売る。
時には、持ち込まれた物を査定してこちらが買い取る日もある。
その日も、いつものように商売トークや常連さんとの他愛もない世間話に花を咲かせて、一日が終わっていった………


そう、ごくありふれた平穏なアンティークショップなのだ。仕事に限っては。
店を閉めて二階の居住スペースに引っ込めば、非日常という名の『日常』が待っている。
「あるじさまー!なでなでして♡」
ベッドに座るなり、膝の上に転がり込んでくる白い少年。
「ちょっと新入り、主のなでなでは僕だけのものだからどいてくれるかな?」
主を強制膝枕から解放しようと少年を引き剥がす、黒い男。
「むー、邪魔しないでよおっさん…」
「おっさ……!!?やっぱり本霊ごと割っておけば良かったかな…」
黒シャツに黒いスラックスの方は、油滴天目茶碗の付喪神・黒沢。
そして、黒沢をそのまま小さくして同じ型の白い服を着せたような風貌の少年は、ユニコーンのガラス文鎮から顕現したもう一人の付喪神・白沢である。
学生時代に修学旅行先で一目惚れして買ったそいつは、皆既月食の夜に初めて人の身を得て、黒沢と激しく敵対した。
付喪神に弓引き主を拐かそうとした己の行ないを悔いた白沢は、自らを割ろうとしたが俺の愛猫・宗近に阻止され、正真正銘の付喪神となるべくうちで修行する事になったのだ。
ちなみに黒沢と戦っていた時は成人男性の姿を取っていたが、現在は少年の姿を取っている。
まだまだ情緒が未発達である故に、神気もそこまでが限界なのだろう。
「はいまた出た。『割る』って言えば僕が怖がるとでも思った?馬鹿にしないでよねおっさん!」
白沢が、威嚇する黒沢を憎たらしげに鼻で笑った。
忠誠心の強いジャーマンシェパードの如く、今にも白沢に噛み付きそうな黒沢を宥めてやる。
「黒沢ステイ!お前の方がお兄ちゃんなんだから、こんなちびの挑発に乗るな。白沢も後輩なんだから先輩の言う事は聞きなさい!」
「お兄ちゃん……?そうだ、僕はお兄ちゃんだぞ!」
そのフレーズで、普段は姉(黒沢のお姉さんはヴェネツィアングラスの付喪神だ。)に叩き伏せられがちな黒沢が、自信と元気を取り戻した。
「ごめんなさい、あるじさまの事は諦めます…」
俺に言われたのが功を奏したのか、白沢はしゅんと俯いて謝った。
「その代わり一度だけ……抱いていいですか?」
反省したと思ったら、とんでもない交換条件をぶつけてくるユニコーン。
俺より先に、黒沢の方が否を唱えた。
「はぁ!!?貴様主に対して御無礼にも程があるぞ!駄目に決まってるだろ!」
「黒沢に言ってないよ。僕はあるじさまに訊いてるの!」
白沢は膝枕から起き上がると、今度は上目遣いで見つめてきた。
「ねぇ、あるじさまは僕の事嫌いなの…?」
またも黒沢が待ったをかける。
「瞳をうるうるさせても無駄だ!ユニコーンはそうやって乙女を誑かし、世話をさせると聞く。清は既に僕と契りを結んでいるから貴様の色仕掛けなど…」
「あぁもう、余計な事言わなくていい!黒沢ハウス!」
もはや俺の制止など、焼け石に水だった。


「ふーん、じゃあ試してみる?僕とお前………どちらがあるじさまを気持ち良くさせられるか」
ユニコーンの付喪神は、先程とは打って変わり物凄い力で俺をベッドに押し倒す。
神気で紅く染まった瞳はルビーの如く冷たいのに、欲望の火がゆらゆらと燃えているようにも見えた………


「あるじさま、僕だって男なんだよ……?」


【完】
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