魔法石の保管庫(チェリまほ)

□付喪神の受難〜ブラッドムーンは忖度しない〜
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吾輩はユニコーン。アンティークショップを営む主の寝室に住んでいる。
ユニコーンと言っても実体がある訳ではない。丸いクリスタルガラスの文鎮に、絵の具で描かれた体が閉じ込めてあるだけの、ゆらぎのような存在だ。
昔とある街の寂れた土産物屋で、誰にも見向きもされず埃を被っていた所を、当時学生だった我が主・清に救われたのだ。
『お前可愛いな。うちに来る?』と、吾輩を両手で包んでくれた清の聖母の如き微笑みは、今でも忘れようがない。

つまりは………清ラブである!!!

しかし何だ?最近我が主に馴れ馴れしくくっついておるあの茶碗は。
蹄で踏みたい………!



10月も29日目となれば、商業施設ではハロウィンの装いから徐々にクリスマスの足音が重なり始める。
色々買いたかったので、久しぶりに車で地元のショッピングモールに繰り出した。
そして、今帰宅した所である。
「清、サービスカウンターで配ってたから貰ってきたよ」
食材を冷蔵庫に仕舞う俺に、油滴天目茶碗の付喪神・黒沢が弾んだ声で見せてきたのは、クリスマスディナーやケーキの写真が載っている予約用パンフレット。
成程、こいつ程のイケメンならわざわざ貰いに行かずとも向こうからくれるか……
「もうそんな時季か。今年はどうするかな…」
ケーキを買うお店は毎年決まっているものの、問題は料理だ。
先代店主だった祖父母が亡くなってからは、独り侘しくファストフード店のチキンやコンビニ飯で済ませていた。
色々考えて工夫するようになったのは、黒沢と出会ってからだ……


購買意欲を掻き立てる為とは言えども、きらびやかで目にも鮮やかなパンフレットは、読んでいるだけでも楽しい。
大定番の苺ショートに、ブッシュ・ド・ノエル。
有名店のパティシエとコラボした高級スイーツ。
シュトーレンやパンドーロなどの伝統的な焼き菓子。
七色のスポンジ生地を重ねたレインボーケーキや、様々な味を皆でシェア出来るプチフールといった個性派。
更に最近は、アレルギー対応がしてあったりペットも食べられるメニューがあったりと、ここ10年程でかなり進化を遂げていた。
「わっ、ロブスターが丸ごと一匹売ってる。こっちはパエリアだ」
おもてなし大好きな黒沢が、ページをめくる度に子供のようにはしゃぐ。
「でもさぁ黒沢…」
「ん?なぁに?」
「こういうの買うのもいいけど……俺は黒沢が作るディナーがいいな…」
お金とか関係なしに、これが俺の正直な気持ちだった。
「去年はレストラン行っただろ?だから今年は黒沢の手料理が食べたい」
俺がそう言った直後、付喪神が手元のパンフレットをぽいと捨てて抱き着いてきた。
「最っ高の料理を作らせて頂きます。我が主」
「無理すんなよ。俺も一緒に作るから」
頭を撫でてやると、抱き締める力がより一層強くなった………
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