護り石の赤鉄鉱(テニス以外)

□ブレーキに異常はございませんか?
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宇佐が学校から帰ってくると、玄関前で彩花と鉢合わせた。
彼女の横には住子さんもいる。
「あーもうツイてない。最悪…」
「運のせいにするんじゃありません!全く、あれ程運転スマホはしちゃ駄目だって言ったのに…」
住子さんが、怒りよりも悲しみを滲ませた表情でため息をつく。
「住子さん…彩花さん何やらかしたんスか?」
「あら宇佐くん、お帰りなさい」
彼の問いかけに、ようやく住子さんがこちらの存在に気付いた。
ここじゃ何だから…と、押し込まれるように茶の間へ移動する。
相当お疲れ気味の管理人を労るように、宇佐が2人分(住子さんが『彩花ちゃんは水道水で良いわよ!』と念を押した)のお茶を淹れて席についた。

「それがね、彩花ちゃんイチコロ(国道156号線)で事故やっちゃって…」
「えっ、まさかひ…」
「彩花、人はまだ轢いてないもん!ガードレールにぶつかっただけだもん!」
逆ギレする彩花を、「そういう問題じゃありません!」と住子さんがひっぱたいた。
彩花いわく、中濃地域にある実家に帰省していて岐阜市に帰る途中、見通しの良い交差点でスマホに夢中で歩行者に気付かず、急ハンドルで避けようとしたらガードレールに突っ込んだらしい。
幸い通行人や後続車に被害はなく、彩花もエアバッグのおかげで擦り傷で済んだが車が大破したという。
その後、すぐに住子さん付き添いのもと警察署で被害報告と事情聴取を受けて帰ってきた所だった。
「車は保険に入ってたからいいとして、しばらくバス通学かぁ…」
「貴女はしばらく携帯禁止!家賃はしばらく待ってあげるから、バイト代は交通費を除いて全て罰金払ってくれた親御さんに返済すること!いいわね?」
さらに、『反省するまでご飯抜き!』まで言い渡されて、ようやく彩花は頭を下げた…。



「……で、あいつだけソトメシなわけか」
仕事から帰ってきた麻弓が、事の顛末を聞いて納得する。
ちなみに河合荘における『ソトメシ』とは外食の事ではなく、庭に放り出されて縁側の踏み石をテーブルがわりに食事をしなければならないという苛烈極まるお仕置きの事である。
「全くけしからんよね。あんなお仕置きを受けるような事しでかして」
城崎が妬むような視線を庭に向ける。このドM野郎に限ってはいかなるお仕置きもご褒美にしかならないのだ。
「ところで、宇佐君と律ちゃんも18になったら取るんだよね?免許」
ドM野郎が、改めて宇佐に視線を戻した。
「まぁ、一応は…」
宇佐が答え、律もこくんと頷く。
「よしシロ!お前車役やれ」
麻弓が、何やらろくでもない事を言い出した。
「ATしか出来ないけどいい?」
「構わん。さぁ早く四つん這いになれ」
「御意!」
城崎が犬のように忠実に麻弓に従い、畳に両手をついて尻を高く上げる。
「AT車は右足一本で操作しなきゃいけないからな。フットレストは、そーだな…」
麻弓は辺りを見回すと、自室から冬用のもこもこスリッパを持ってきた。
「左足は、とりあえずこいつに突っ込んどけ」
「あ、はい」
まだ律ちゃんには突っ込むなよ?とからかわれ、宇佐が真っ赤になった。
言われるまま、左足をスリッパに入れて固定する。(ちなみに律は、住子さんに『相手にしたらダメよ』と言われて部屋に戻った。)
「右尻がアクセル、左尻がブレーキだよ。さぁ踏んで!」
城崎がこの上なく生き生きした表情で、宇佐に薦めた。
当然ながら、ドン引きする宇佐。
「ほら早く早く。ATだからブレーキ踏んでないと危ないよ。勝手に動いちゃうよ?」
城崎が、尻を高く上げたまま少しずつ前方に移動する。
「クリープ現象だ。」
冷静に解説する麻弓。
17歳の乙女に見せていたら住子さんにぶっちめられていただろう光景だ。
宇佐は観念したように、右足で城崎の左尻をギュッと踏んだ。
「あぁっ今の個人的にすごくイイ!でも急ブレーキだから危ないよ。」
「急ブレーキ・急停車・急発進。事故のもとになる三大要因だからよーく覚えとけ」
麻弓の念を押すような物言いに、『危険運転しまくってたあんたに言われたくない…!』と、宇佐は海に行った時の事を思い出して震えた。
「止まる前に、まずポンピングブレーキで減速するんだ。後続車への合図にもなるからな。2〜3回に分けてゆっくり踏んでみろ」
麻弓に言われるがまま、宇佐は次は右足に少しずつ力を入れて城崎の左尻を踏み続ける。
「さっき程ではないけど、これはこれで…!」
ハアハアと息を荒らげる城崎。ブレーキを踏む動作とは真逆に彼のドMアクセルはどんどん回転数を増していくらしい。
「車が喋るな」
「あざっす!」
麻弓の言葉責めにも、律儀に反応していた。
麻弓の教習は夜中まで続き、その間中ずっと城崎がエクスタシーに身を焦がしていたとか、いなかったとか…

【END】

とりあえず彩花氏ごめんね



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