護り石の赤鉄鉱(テニス以外)

□ドMなおにいさんは好きですか?
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長良川の鮎たちも茹で上がりそうな、とある猛暑日。
朝から草むしりに駆り出されていた河合荘の住人達の顔に、管理人の「皆ー、アイスよー」という声で笑顔が戻った。
待ってましたと年甲斐もなく走り出す麻弓に続いて、他のメンバーも汗を拭いながら続いた。
「だーめ、年功序列よ。シロ君はソフトアイスだったわね。はい」
そう言われて固まる麻弓をよそに、住子さんが城崎にアイスを配る。
彼は河合荘の中では最古株にして、宇佐が入るまでは唯一の男手だった為、こうして住子さんの側で働いている事が多い(と言えば聞こえは良いが、ドMなので良いように使われていると言った方が正しい)。
笑顔で礼を言う城崎の近くで、麻弓がピノを選んだ彩花をからかっている。
「出た〜、わざと一口サイズのやつ頼んで少食&可愛いアピールする奴〜ww」
「麻弓さんこそ、ホントはアイスじゃない方のホームランバー食べたいんじゃないの?欲求不満とかなった事ないから彩花分かんなーい。」
数々のサークルを潰し、男子学生を破滅に導いた彩花である。この程度の悪口で負けてはいない。
「まあまあ二人共。そんなに元気が有り余ってるなら……」
住子さんの周りの空気がドライアイスになる前に、喧嘩は強制終了となった。
「悪いわね律ちゃん。図書館に避難してても良かったのよ?」
「いつも住子さんばかりに、負担かけられないから…」
姪孫にのみ見せる朗らかな笑顔で、住子さんが律と宇佐にパピコを手渡した。太っ腹にも二本繋がったやつではなく、一本入りのでっかい方をそれぞれに。
ちなみに律はコーヒー味、宇佐はカルピス味である。どういう訳か。
「宇佐くーん、律ちゃんとパピコ半分こできなくてがっかりしたでしょ?」
「『あわよくば先輩に俺のパピコを…』とか考えてんじゃねーぞ!この拗らせ童貞!!」
彩花の殆ど精神を抉りにかかっているイジりに、麻弓が下ネタを被せてきた。
この毒婦コンビは普段は蛇とマングース並に相性が悪い癖に、こういう時に限り一致団結してくる。
しかしこれも日常的な光景なので、宇佐は今更突っ込む事もせず溜息を一つついてその場を離れた。
彼の視線の先には………



(しかし、しっろい肌だな…。だからシロさんって言うのかな…)
時折タオルで汗を拭いながら、ソフトクリームを味わう城崎がいた。
日頃あれだけ野良仕事をしているにも関わらず、彼の肌は日焼け一つしていなかった。
長袖シャツや手袋で防護していても、隠れきれない部分は焼けるものである。
更に追い討ちをかけるかの如く、城崎がソフトクリームを舐める度に紅い舌先が見えて、宇佐は喉を鳴らした。
(あ、あんたエロ過ぎだろ…!ああぁ溶けたクリームがシロさんの手に…!!それを
どうするんだ!舐めるのか?舐めちゃうのかっ……!!?)


「舐めるなっ!!!」
思わず大声を出してしまい、住人達の眼が一斉に宇佐に注がれた。
一番驚いたのは、勿論城崎である。指先を拭おうとしたタオルを落としてしまい、呆然と固まっていた。
「舐めずにどうやってアイス食うんだよ。っていうかお前ナニ想像してた?」
麻弓が、呆れたように言う。
「童貞拗らせ過ぎて、ついに男でも良くなったか。あぁ?」
ベシッと頭をはたかれる宇佐を、今度は城崎が羨ましげに見つめていた…。





新学期が始まって間もないある日。
宇佐はバイト先の書生カフェで、中学時代の同級生・林と待ち合わせしていた。
「宇佐くんが私に相談なんて、珍しいじゃない。」
衣装オタクでもあるオーナーに着せてもらったのか、林は何故か袴姿に髪をリボンで結った女学生スタイルである。
「急に呼び出してごめん。実はさぁ…」
「律先輩と何かあった?」
「ちげぇよ!先輩関係じゃなくて…」
直球すぎる聞かれ方に、宇佐も思わず真っ赤になって否定する。
「何よ?はっきり言いなさいよぉ」
じれったそうに続きを促す林に、宇佐がぽつぽつと語り始めた。
「もし林がシェアハウスしててさ、同じ部屋の同性を好きになったら…どうする…?」
「へ、同性?異性じゃなくて…?」
「同性」
思わず変な声を出してしまった林に、宇佐が静かに畳み掛ける。
「あんた…いくらヘンショリだからって、変態の性欲処理までしてやる事ないのよ……?」
林が、精一杯の憐れみを込めた視線を宇佐に向けて諭した。
彼女も、宇佐の言う『同性の想い人』に一人だけ心当たりがある。しかし、それだけに尚更自分の予想が外れていて欲しいと密かに願っていたのだ。
「まぁ別に同性愛者を差別したりは無いけどさ………なんでアノ人なわけ?」
「それは…」
宇佐が言葉を詰まらせる。
「だってあの人、ドMじゃん」
「なっ…!性癖は関係ないだろ!!」
「でもニートじゃん」
「家賃は一応、毎月払えてるらしいよ。職業は知らんけど…」
「それに不審者丸出しじゃん。しょっちゅう補導か職質されてるし」
「ぐぬぬ…」
宇佐のアイスティーの氷が、カランと音を立ててグラスの底に滑り落ちた。
「下手したら、あんたまで変態変人扱いされるわよ」
高校デビューすれば少しは変人処理係(ヘンショリ)の責務から解放されると思っていたのに、もはや呪縛に等しいと林の額に汗が滲んだ。
過ごしやすい季節になるのは、もう少し先のようだ。




「なんだよあの拗らせ童貞はよー…。女々しくてつらいわ、見てる方が」
遠くから(よこしまな気持ちで)見守っていた麻弓が、頭を抱える。
「まあまあ、なんなら彩花が紙の上だけでも想いを遂げさせてあげようか?」
彩花が獲物を見つけた猫のように眼を見開いて微笑む。(ちなみにこの娘、元腐女子であり、今でもたまに律にBL小説を貸しては住子さんに嗜められていた。)
「わぁい『ナベツネ』復活やね!美晴でれ嬉しい!!」
「うん、お前は少しお黙っとけ」
何故か来ていたかつてのサークル仲間・常田美晴が手を挙げて喜んだ後、彩花に押さえ付けられていた…。


<END>

尻切れな感じですみません…
林さん動かすの難しいけど、大好きなキャラなのでこれからもちょこちょこ出してあげたいです。


 

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