護り石の赤鉄鉱(テニス以外)

□『うちのシロ知りませんか?』
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城崎は、いつもふらりと何処かへ行く。
といっても家賃は毎月滞りなく納めているので収入源がある事は確かだが、職業は誰も知らない。というより、彼はあまり自分の事を話さない性格だった。
行き先は様々で、管理人である住子さんの手伝いで買い物に行っていたり、彼女の知り合いのツテで草刈りや畑仕事などを手伝ったり、しかし大半は不審者よろしく辺りをふらついて警察に保護(というより補導)されていた。


とある日曜日。
いつもは隣(一室をレールカーテンで仕切っただけの代物なので、本当に隣である)で一人SMに勤しんでいる筈の同居人が見当たらないので、宇佐は不思議に思った。
名前を呼びながら長い廊下を歩いていると、ガラと茶の間の引き戸が開いて麻弓が顔を出した。
「シロなら居ねーぞ。」
呑んでいたのか、顔が仄かに紅い。
「麻弓さん…、また昼間から酒かっ食らって…。住子さんに叱られますよ。」
ここ河合荘に来て、何回目になるか分からない溜め息を吐く宇佐。
「うっ…うるせーな。とにかく、シロが居なくなるのはいつもの事だから、あんま気にすんな。夕方になったらお勝手の手伝いあるから帰ってくんだろ。」
麻弓に軽くいなされ、宇佐は何となくモヤモヤした物を胸に抱えながら書生カフェのバイトに向かった。




その日もバイト先で持ち前の変人処理能力を遺憾なく発揮し、くたくたに疲れた体で宇佐は帰路についた。
少し気分転換をしていこうと自販機でジュースを買って、長良川沿いの道に下りた。
夕焼けをバックに聳える金華山、西日でキラキラと輝く川面、河川敷の遊歩道でジョギングする老夫婦、テニスやキャッチボールを楽しむ親子、メモリアルセンターで試合があったのだろう空手着姿で歩く若者達……騒がしい下宿から出てみると、のどかの一言に尽きる光景がそこにはあった。
「これが、先輩の育った町なんだな…」
暖かく、何処か懐かしい面影が宿る光景。それを宇佐は噛み締める。


「嫌だ!離せっ!!」
「何だよ、痛いのが好きなんだろ?」
「もっと痛くしたろか、オラ」
「もうやだ、やめろ…!」
突然、風景に似つかわしくない物騒な声がして、宇佐は現実に引き戻される。
橋の下の方からだ。
しかし、朝から抱いていた胸騒ぎにも似たモヤモヤが的中し、宇佐は走り出していた。

「この声…シロさんだ!!!」


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