転がる黒真珠(庭球・高校生)

□試合が終わればみんな友達
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U-17合宿所図書館にて、金太郎は一人本棚と闘っていた。
「んー…あかん、やっぱ取れへん!」
自慢の跳躍が使えれば余裕で取れるのだが、こんな所で発動したらそれこそ白石に何をされるか分からない。
そんなもどかしさと恐怖が相まって、益々金太郎を苛立たせた。


こんな事になった原因は、数時間前に遡る。
その日の練習は午前のみであり、午後からは学業の時間だったので選手達は思い思いの場所で勉強をしていた。
金太郎も例外ではなく、「もっと試合したいわぁー」と駄々をこねてる所を白石に脅されて図書館まで連れて来られた。
まず2時間かけて数学をやった後、休憩を挟んで英語に取り掛かった。
そこで白石が「長文の勉強から行くさかい、金ちゃんの好きな本選んできて英訳してこか。」と言ってくれたので、金太郎は喜々として本選びに走っていった。
そして、目当ての本が見つかったが所定の場所まで背が届かず、今に至るという訳である…
「ふんぎぃーー!」
金太郎が耐え兼ねて叫んだ時だった。

「これ、図書館で騒ぎなさんな」

頭上から響いてきた声に顔を上げると…
「おぉ、伊蔵ちゃん!」
金太郎とバッジをかけて戦った相手・袴田伊蔵だった。

「伊蔵ちゃん、もう怪我は平気か?」
「お陰さんでのう。わしに血を流させるとはおっとろしい奴じゃ」
「あれは伊蔵ちゃんが勝手に自爆したんやろー(笑)」
試合前の険悪さなど何処へやら。いつの間にか二人はすっかり仲良くなっていた。
「ところで金太郎、あんた何さっきから本棚と喧嘩しとんね」
伊蔵の言葉で、金太郎はようやく本来の目的を思い出した。
「せや!ワイあの本が取りたいんやけど届かへんねん!」
金太郎が指差す先には、『ダンゴ虫の冒険』と書かれた絵本があった。
伊蔵は一瞬「あんた幼稚じゃねえ」と思ったが、口には出さずに金太郎の足元に屈んだ。
「ほら、乗りんさい」
取れるように肩車してやる。という意味らしい。金太郎は予想外の展開に目を丸くした。
「ホンマにええの?」
「早うしんさい」
伊蔵が一歩も退かないので、金太郎はお言葉に甘えて乗せてもらった。
肩車をしてもらった状態だと、目当ての本が丁度目の前に来た。


「おーきに!伊蔵ちゃん力持ちやなー。結構ええ奴やん」
無事に本も取れて、金太郎は笑顔でお礼を言った。
「あんたには、送り届けてもらった恩があるけぇの。広島の漢は受けた恩はキッチリ返す」
「ワイら浪花の漢も、やられたらキッチリやり返したるでぇ!」
その時、「金ちゃーん、何処まで行っとるんやー」という白石の呼び声が聞こえた。
「アカン、ワイもう行かな!
伊蔵ちゃんホンマおおきに!またな!」
「あぁ、頑張りんさい。また試合でな」

野生味溢れる二人の、死闘から生まれた奇妙な友情はまだ始まったばかりだった。




<オマケ>
「伊蔵が金太郎君の子分になったって、みんな噂してたわよ」
「誰が子分じゃ松平!今夜襲うぞ」
「キャー、若旦那助けてー」

《END》

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