笑え。

□六章
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〈トスん、トスん〉


「はぁ…殿は何処にいらっしゃるのやら…」


朝、執務室を覗いたが
殿の姿がなかった

他の部屋も覗いたが…全く同じで

稽古場にも、湯殿にも、
庭にも….何処にもいなかった

いつも同じ時間に置き
同じ姿勢で執務をやる殿が
何処にもいない

この島左近。とても困って居ます。

取り敢えず、殿に怒鳴りつけられる前に、お嬢を起こしに行くとするか…




殿の部屋の前に立ち、
「失礼しますよ…」と一応お声をかけ、襖を開ける

やはり殿はいなくて
呑気に寝ているであろう
執務室の奥にある寝室へと
目を向けた









「やれやれ…お嬢、そろそろおき………っ!」








驚いて声が出なかった
そこにはぐすっりと寝ている
お嬢だけでなく…






殿もぐっすりと寝ているではないか…








しかも…









「そう言うことですか。くくくっ」








殿から、しっかりと
名無しの腕を握っていた


まるで離さないというように
お前を何処にもやらないとでも
言うように……





「さ、邪魔者は退散するかな」





気配に敏感なあの殿が…

この左近が気配も消さず、どちらかと言うと気配を出しまくりで来たにも関わらず寝ているとは。

それだけ安心しているなんて
やはり只者ではなかったな


もう一度クスリと笑い
ゆっくりと襖を閉めた




【いよいよ、今日。】










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